いつか出逢ったあなた 45th

ヒカリ

第1話 「はー…」

「はー…」


 お偉いさん達との飲みの帰り。


 いつもなら、家の前までタクシーに乗る俺だけど…今夜は少し歩きたくなった。

 それも、あまり知らない場所を。

 こんな気持ちになる事なんて、めったにない。

 何なら初めてだな。

 って、俺…疲れてんだろうなー。



 何もかもが上手くいくなんて、きっと奇跡なんだ。

 近年、俺は常にそう思っている。

 だから…多少仕事で嫌な事があっても、これは当然。あって当たり前。って思える。

 思えるし、あきらめもつくんだが…


 疲れる。

 心底、疲れる。



 家に帰ると、ハッピーな顔ぶれ。

 それを幸せに思う反面…誰かに癒されてぇー…って思う自分もいる。


 …いずみ…元気かな…



 もう、華月かづきから名前を聞く事すらなくなった泉の事を考えながら。

 あまり来る事のない町の、そう大きくない橋の上を歩いてると。


「ニャーッ!!」


「……んっ?」


「ニャーッ!!」


 …猫?

 どこだ?

 普通の鳴き声と言うより…

 まるで助けを求めるかのようなその声に、暗がりの中…目を凝らしてみると…


「ニャーッニャーッ!!」


 …いた。

 土手に…白い物体発見。

 ついでに…


「えっ。」


 土手で鳴いてる猫は、川に向かって必死で声を荒げてて。

 そこにもまた…溺れかけてる風な猫がいた。


「マジかよ…」


 親父がLINEのスタンプで猫を送りまくるせいか、いつの間にか飼ったこともない猫に親しみを感じてしまってる。


「ニャーッ!!」


「おまえどけろ。落ちるぞ。」


「ニャッ!!」


 川沿いで、今にも飛び込みそうだった猫の体を少し乱暴に草むらに放り投げる。

 そして俺は…


 バシャン


 川に入った。


 つ………

 冷てっ…!!


 ああ…バカだ俺!!

 酔っ払ってるから…ちょうどいいなんて思ったけど…

 11月半ばで行水する奴なんて、いねーよ!!


 てか、思ったより…


「ふかっ…」


 少し必死で手を動かした。


 溺れかけてたはずの猫は、俺が飛び込んだ時に驚いたのか…

 その反動で、岸に飛び移れたらしい。



 ゴボゴボ…


 なんだこれ。

 この川…こんなに深いのかよ…

 俺、最後に泳いだのいつだったっけな…


 ゴボゴボゴボ…


 ……やべーんじゃね?俺…

 咄嗟に、新聞の見出しが頭に浮かんだ。


『会社社長、川に転落死』


 いや…


『ストレスによる入水自殺』


 …そう取られても仕方ねーかもなー…


 適度に溜まったストレスを、俺は誰にも吐き出せないまま。

 そういうのは吐き出すもんじゃない。

 消化するもんだって思ってる俺は…いつも全部自分の中に溜め込む。


 今までも…一度たりとも、悩みを誰かに打ち明けた事なんてない。

 親友と思ってる、詩生にさえも。



「……」


 身体から力が抜けかけて。

 ついに息が止まるのか。

 苦しさは過ぎたかもしれない…と思った頃に、ふいに目の前に…髪の毛の長い女の顔が見えた。


 …これって、お迎えか?



 ぐいっ。


 迎えが来た。

 なんて思ってた俺は、強い力に引っ張られて。

 半分以上自分の終わりを覚悟していたのに…


「…はっ…は…はっ……」


「にゃー…」


「はっ…はっ…あ………」


「にゃー…」


「…大丈夫…?」


「にゃー。」


「………は…」


 猫の声に紛れて…聞こえて来たのは…


「生きてる?」


 …聞いた事のない…女の声だった。


 --------------------------------------------

 やっと聖くんのお話!

 ついに聖くんのお話!


 毎回時空列前後し過ぎるので、ちと説明…

 これは、44thでみんなが動物園と水族館に行った日の聖くんの出来事です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る