探偵・七海真の事件録
村紗 唯
第1話 プロローグ
諸君は探偵と聞いて何を思い浮かべるだろうか?
コナンや金田一? なるほど。いいと思う。ミステリの入りとしてはわかりやすい。
シャーロック・ホームズやミス・マープル? これもまたいい。それらはミステリ界では伝説と言っても過言ではない作品だ。
え? 中禅寺秋彦や犀川創平? すごいね。あの分厚さ全部読んだんだ。悪いな。俺はあんまり読書をする方じゃなくてね。
いずれにしても、探偵と呼ばれる者たちは常人とは思えない程の強烈な個性を持っている。薬物中毒者だったり、陰陽師だったりと。やはり、どこか一般人の常識から乖離している人物が探偵たり得るのだろうか。
それならば、高校の三年間、俺をあちこちに引っ張りまわした彼女は、探偵と言えるのだろうか。ちょっとだけ正直過ぎた彼女は、物語の探偵としてふさわしいのだろうか。
探偵とは、
ならば、彼女は探偵ではないのだろうか。これらの疑問に、無知で無智で無恥な俺ではどうも判断がつかないのだが、彼女が探偵であろうがなかろうが、それでもそれらの事件を解決したのは彼女でしかなくて。徹底的な嘘つきである俺には、その手伝いを出来たのかさえ定かではない。彼女に聞いても「どう考えてもあなたの方が探偵らしいわ腹立つけどね」なんて言いそうなのだが、とにかく、俺にとって探偵と聞いて思い浮かべるのは彼女以外には存在しない。
創作上の探偵は、事件が起こると必ずその場所にいて、颯爽と事件を解決する。俺の目には何とも胡散臭い人物に見えて仕方ないのだ。彼らは、探偵というよりむしろ、探偵役と呼称するのがふさわしい。
益体もないことを、ここまでつらつら並べて何を言いたかったのかと言うと、現実は創作のように完璧な展開など用意されていないということだ。
探偵だからと言って、何もかも分かるわけでは無いし、犯人には深い理由もないし、すべての情報が漏れなく、余すことなく公開されることなど当然には起こりえない。一風変わった変人が、現場に颯爽と現れ、誰も気が付かない事実に早々と気付き、自信たっぷりに犯人を明らかにする。そんなのは、物語の——創作の嘘だ。だから、これから書き連ねる我ら探偵部の記録には、爽快感や達成感などなく、理解も納得も得られず、ましてやハッピーエンドになるとも限らない。ただひたすらに、トゥルーエンドでしかない。そうなるべくして成った結末しかないのだ。
悪のすべてが裁かれるわけでは無く、善のすべてが救われるわけでもない。
だが、しかし俺は思う。
善のまま悪を憎み、善のまま真実を見つめ続け、悪の中で善たろうとした彼女はやはり物語の主人公なのだろう、と。
これから、綴るのはいずれも彼女・
その記録は、その事件の探偵役であり、主人公である七海ではなく、限りなく一般人で加えて積極的な虚言使いであるこの式場がつけている。したがって、極めて主観的で、ひどく懐疑的な記録になることを保証させてもらう。
それでも、この俺が信用できるという奇特な方は、是非読んでみてほしい。
さて、それでは記録を始める上では欠かせない、俺と七海の出会いから記録を始めていくとしよう……
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