第59話 ファーストキスは何の味?


ヘロヘロになった奴の首根っこをつかみ、ひっくり返す。



…………。



由紀は俺の後ろで奴を遠目に見ている。

薫は相変わらず、ベッドの上で軽くうなされている。



ひっくり返ったやつの髪は乱れ、顔の上に髪が覆いかぶさっている。

はて、どこかで見た覚えのあるような顔が……。


そのまま奴の両足首を持ち、テーブルの反対側に引きずって移動させる。

軽くうなされている奴はなぜか半裸状態。


あぁ、そうか。そういう事か。


俺は軽く奴の横腹を蹴り飛ばす。



「ぎゃふん!」


まだ起きない。もう一度俺は軽く蹴飛ばす。


「あふんっ……、もっとぉ……」


おぉ、そうか。もっと蹴ってほしいか!

それなりに力をこめ、奴のおでこを踏みにじる。


「あぁぁ、いい感じです! 純一様ぁ! もっと、もっと踏んでくだぁしぁ」



……。



「おい、マリア? 君はここでナニをしているのかね?」



髪の乱れた、ベッドの下に潜り込んでいた奴はマリア。

俺も知っている、あのマリアだ。



「へ? えっと、それはですね……」


乱れた髪を軽く直しながら、目の前で正座を始めるマリア。

マリアは俺を直視した後に、由紀へと目線を移す。


若干目が泳いでいる。いや、若干ではないな。

冷や汗をかきながらおろおろしている。


大きなため息をついた後に意を決したかのように話し始める。



「わ、私は悪くありません! ただ、仕事をしていただけです!」



俺は全力でマリアのおでこにデコピンを放つ。



「あうちっっ!」



「さて、マリア。その仕事についてもう少し詳しく話してもらおうか? 由紀はマリアの隣に座って、変な動きしたらさっきのをもう一発いいぞ」


由紀は無言でマリアの隣に座る。


マリアは服を整え、正座でおろおろしている。乱れた髪も後ろで一つに束ねたようで、見た感じはいつも通りになっている。

が、顔はやや青く、口元が引きつっている。



「わ、わかりました。私は入出許可の出た純一様のお部屋を掃除をしていました。そうしたら窓の外から物音がしたので、怖くなってベッドの下に避難したのです! 決して純一様のお部屋で全裸で踊ったり、ベッドの中ではナニもしていません!」


こいつ、絶対に何か色々としていたな……。


「隠れていたら、窓が開き、誰か侵入してきたのです! それはそれは怖くて、もぅガクブルですよ!」


薫か。窓からこの部屋に侵入してきて、玄関の扉を開けたし、多分間違いないだろう。


「で、さっきまでずっとベッドの下にいたのか?」


「そうです。出るタイミングと言うか、全裸に近い状態では出るに出れなくでですね……」


マリアの顔はテヘペロになっている。

俺は由紀の方に顔を向け、目線で合図する。



「ぴぎゃ!」


「電圧は低くしました。さっきより、気持ちいでしょ? ね、マリアさん?」


「そ、そうですね。この位ならプレイ中でもいい感じになりそうです」


「由紀。最大電圧で」



「わーーー! 嘘です! ごめんなさい。 もうしません!」



はぁ、いったいマリアは何をしていたんだか……。



「で、何故マリアは隠れていたのに、何故沈黙を破ったんだ?」


そう、もともとこっそり隠れていたのに、何かの物音で、俺が気が付いた。

そのまま隠れていれば、見つからなかったかもしれないのに。



「えっと、こっそりしていたんですが、目の前に封筒が一枚落ちてきて、女の字で恋文が書かれていた事に若干いらだちを覚え、中身の確認ををしようと封を破ったんです! そうしたら純一様が私を見つめてきたものですから……」


ちょ、勝手に人の手紙見ようとしたのかこいつは。

俺だってまだ中身見ていないのに!


「こらこら、勝手に人の手紙見るな。俺だって見ていないんだ! 人生初恋文なんだぞ! 勝手に見るなよ!」


俺はベッドの下に放置された封筒を回収し、ベッドにそのまま座る。

少し封の開きかかった手紙。後でゆっくりと拝見させていただこう。


ふっと、薫の表情を見る。

薄らと目が開き、ゆっくりと起き上がる。


「純一……」


そのまま、上半身を傾け俺に抱き着いてくる。



「責任は私がとるわ……。もぅ、いいでしょ?」



そのまま、薫は俺の両頬をホールドし、顔を近づけてくる。










「っん……」





そして、マリアと由紀の目の前で、俺のファーストキスは奪われた。








ファーストキスはほろ苦いコーヒーの味がした……。

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