第26話 家族団らん


 リビングにはすでに母さんと由紀、配膳中のマリアさんがいる。


 心なしかマリアさんも由紀も頬が赤い。

あ、二人とも俺から目をそらした。何を考えていたんだ?


「お待たせしました」


 テーブルにはご飯とスープ、サラダにデミソースのハンバーグ。

そして、果物が並んでいる。


 おー、やったぁ! ハンバーグ! おいしそう!


「純一さん、少し早いけど食事にして、今日は早めに休みましょう」


「はい。今日は早めに休みたかったので、助かりました」


「兄さんはハンバーグ好きだったよね? マリアさんが作ったんだって」


「そうなんですか? ありがとう、マリアさん。とってもおいしそうだね」


 俺はマリアさんの方を見て微笑む。


「あ、ありがとうございます。今日は挽肉が安かったので、たまたまですよ」


「あら、そうなの? てっきり純一さんの為に作ったと思ったのに」


 母さんがマリアさんに突っ込みを入れる。

なんか、マリアさんも家族の一員って感じがして、この雰囲気いいなぁ。


「お、奥様! 確かに純一様の為と思いましたが、本当に安かったんです! グラム六十円ですよ! 大特価です!」


 ものすごい力説している。

普段と比べ、どのくらい安いかさっぱりわからんが、安かったんだろうなきっと。

そんな肉の話をしているとレイさんがリビングに戻って来る。


「お待たせしました」


 母さんがレイさんをまじまじと見て話しかける。


「良かったわね、ソースがちゃんと落ちて」


「はい。早めに対応したので何とかシミにならずに済みました」


 どうやらレイさんは、洗面所でシャツのシミを落としていたらしい。

デミソースでも着いたのかしら?


「みんな揃ったし、いただきましょう」


「兄さんもやっと普通のご飯が食べられるね」


「そうですね、純一様はしばらく病院食でしたからね。おかわりたくさんありますよ!」


「ありがとうございます。たくさんいただきますね!」



 しばらくみんなで会話をしながら、食事をとる。

恐らく普通の会話だが、話に出てくる有名人の名前が一致しない。

アイドルユニットの名前も、スポーツ選手の名前も……。

俺の記憶では知らない名前。もしかしたら歴史上の人物にも誤差があるのか?

後で、ネットで調べてみるか。


「兄さんも高校生になるのだから、そろそろスマホを持ったら?」


「そうね、純一さんにも必要ね」


 え? 俺持ってないの? ノースマホ? ゲームは? メールは?

なんで持ってないの?


「兄さんは『自分には必要ない』ってずっと持っていなかったけど、高校生になったら必要だと思うよ?」


「そうだね、高校生だし一台欲しいね」


「分かりました。それであれば純一さん用に一台申請しておきますね」


 申請? そのへんのショップで買えばいいのでは?

そもそも誰に申請するの?


「えっと、新規契約で申請を?」


「男性は役所に申請書を出さないと持てないのよ?」


 母さんがそんな事も知らないの? といった顔で俺を見ていたが、何かに気が付き、口ごもってしまった。

そうなんですよ。俺は記憶が無ーい、事になっている。


「何故そんな事に?」


「純一様。もし、一般の店で購入したら番号とかアドレスをショップの女性陣が入手し、大変なことになりますよ?」


 マリアさんも話に加わり、俺に説明をしてくれる。


「そうです。そのショップ内だけならまだしも、近場のチェーン店全ての女性に情報が洩れて、電話が鳴りっぱなしになりますよ?」


 レイさんも同意見だ。どうやら俺はその辺でスマホ一台も契約できないらしい。

しょうがないね、でも新しいスマホが手に入るならいいや。


「それでは、明日にでも純一さんの通信機器所持申請を役所に出してきますね」


「はい、お願いします」


 そんな会話をしながら、食事中に襲われること無く普通に終わった。

女性と一対一だとまずいが、複数いる場合は大丈夫なのか?


 食事が終わり、俺は一人部屋でゴロゴロする。

久々にゆっくりしている。自由の時間はいいなー。

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