男女比がおかしい世界でハーレム無双 ~普通の俺に彼女ができました~

紅狐(べにきつね)

第1話 初めてのラブレター


 俺は今日この学校を卒業する。

入学してから三年。たった一つの心残りがある。



 かわいい彼女が欲しかった。




 彼女が欲しくてわざわざ実家を離れ、一人暮らしをした。

彼女ができたら部屋に呼びたいからだ。


 彼女が欲しくて、勉強を必死に頑張った。

おかげで学年でも十位に入れる学力を身につけることができた。

彼女ができたら、いちゃいちゃしながら勉強を教えてあげられる為だ。


 彼女が欲しくて部活をし、副部長になった。

さわやかなイメージをつけ、頑張る姿を彼女に見てほしかったからだ。


 彼女が欲しくて生徒会に入り、会長を務めた。

学内で一つしかないポジションは内申点もいいが、彼女が欲しいからだ。


 彼女が欲しくて料理もした。なかなかおいしく作れるようになった。

しかし、この三年間自分以外が食する事はなかった。一度もだ。


 彼女が欲しくてバイクの免許も取った。

後ろに乗せて、ギュッとしてもらいたかったからだ。


 彼女が欲しくてギターを買った。

楽譜を見ながら弾き、歌えるようになったが、聞かせる相手はいない。


 彼女が欲しくてスタイルを維持し、見た目もさわやかな青年にしていた。

服装にも気を使い、毎週ファッション誌を読んではトレンドを追った。

まぁ、隣を歩いてくれる女子はだれ一人いなかったがな。


 彼女が欲しくてバイトもした。

もちろん女の子が多そうな短期のバイトだ。

出会いもなく、バイト代だけが懐に入った。


 彼女が欲しくてできることは何でもした。

アニメも見たし、絵も描いたし、スポーツ観戦もした。

どんな彼女ができても、楽しくできるように、準備は整っていた。



 しかし、この三年間彼女はできなかった。



 俺は卒業証書の入った筒を机に置き、教室に一人残る。

友人たちはみなカラオケに行った。


 空いた窓から風が入ってくる。

まだ冷たい風だ。誰だ開けっ放しにした奴。寒いじゃないか。


 立ち上がり、窓を閉め外を見る。

校庭にも誰もいない。この三年、俺はなぜ彼女ができなかったのだろう。


 荷物をそのままに、校内を回る。

理科室、実験室、美術室、音楽室。


 どこに行っても誰もいない。まぁ、当たり前か。

ふと、下駄箱に目が行く。俺の下駄箱以外はすべて空っぽ。

この下駄箱にも随分世話になったな。


 何となく下駄箱を開けると一通の封筒が。



 こ、これは!



 俺は大急ぎで中身を確認する。



――これは恋文だ!


卒業式の終わった日、屋上に続く階段の一番上で待っています。



 間違いなく女の子の文字! しかもやや丸みがあり可愛い!


 屋上にいける階段は一ヶ所。

俺は急いでその場所に向かう。それはもう陸上部の奴らも真っ青な速さでだ。


 今までにないくらいテンションが上がっている。

そりゃそうだ! ラブレターだ! 三年間で初めてもらったラブレター!

このチャンスを絶対に物にしてやる!


 階段をマッハの速度で駆け上がる。さすがに一階から四階までのダッシュはきつい。

あと少し、屋上の扉が見えてくる。急げ!



「ごめん! 今、手紙を見た――」



 階段を駆け上がる途中、あまりに急いでいたために踏み外す。

そして、そのままものすごい勢いで落ちていく。

天井が見え、後方が見え、また階段が見える。


 あ、これは結構まずい。体勢が元に戻らない。

というか、ものすごい速さで落ちているが、スローモーションのように景色が見える。


 落ちる途中『ゴキ』とか『グキ』とか聞こえる。

体の中から聞こえる音だ。これは折れたな……。


 そして地面に転がり、動けなくなる。

や、やばい。俺は大丈夫なのか?

いや、そんな事より、まだ彼女の声も聴いていないのに、目が開かない。




「私を絶対見つけてね……」



 顔も分からない彼女の声を聴きながら、俺の意識は遠くなっていった……

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