第95話目 ブロガー7

 愛美が修学旅行から帰ったのが13日。14日に図書館に現れ、今夜辺りブログのほうにも書き込みがあるだろうと待ち続けたが、結局愛美から書き込みがされたのは、18日の夜だった。拓也はブログの中ではあくまでもタクシーで、愛美は知らない人だという体で、今まで通り毎日ゲストページに書き込みをしていたのにAIは13日の夜にはそれに気づいたはずなのに、18日まで放っておかれたのだ。


 その待ちに待ったマナの、いや、AIの書き込みを見つけたとき、やはり嬉しいという気持ちが先に沸いた。が、その直後に、やっときたかと胸の中にどす黒い何かも湧き上がってきた。


 『タクシーさん、こんばんは。まずは、毎日書き込みをしてくださって、ありがとうございました。お返事遅くなってごめんなさいね。ずっと仕事で出張に出ていたので、ブログを開くことが出来ませんでした。GWが開けてからの書かれた記事も読ませてもらいました。今日の記事のランチは……今日のですか?ミラノ風のドリアって、私は食べたことがないんです。とっても美味しそうで、興味そそられました(笑)』


「ちっ」


嘘つきめ。何がずっと仕事で出張だ。何が(笑)だ。おかしいことなど何もないじゃないか。心の中でそうどつきながらも、やはり返事が入ったことは嬉しい。


 『今夜記事にしたミラノ風ドリアはGW前に行った時のものです。ミラノ風ドリア美味しいですよ。AIさんも機会があったらぜひ(笑)そういえば、今、AIさんが読もうと思っていると言っていた「コンチ館の殺人事件」を読んでいるんです。主人公のキャラが面白すぎて、これ、ミステリ―だっけ?と確認しながら読んだりしています。これ、伏線かな?というものがあちこちに散らばり過ぎてて、なんだか騙されそうな予感がしています』


 マナはまだ『コンチ館の殺人事件』の読書の感想をUPしていない。そしてすでにマナが読んだことをタクシーが知っていることも知らないはずだ。マナはこの話題に食いついてくるのではないかと期待しつつコメントをした。


 が、その晩はそれからAIからの書き込みはなかった。


 マナはもうブログにはいないのだろうか?いや、MASATOとはやり取りをしているのではないか。ゲストページには自分の書き込んだものが2つしか表示されていない。1つのページに5つまで載るのだから、3つは違う人の書き込みがあるはずで、それはきっとMASATOだろう。そう考えると、自分には見えないところで2人が交流をしていると思うだけで、嫉妬の感情がむくむくと湧き上がってくる。


「くそっ」


 パソコンを消したあとも、もしやという気持ちがどうしても消えず、ベットに入ったあとも何度もスマホでブログチェックをしていたがAIからの書き込みはなく、MASATOの正体を知った日に、MASATOにAIの正体を教え、AIの前からMASATOが去るようにしたいという気持ちがまた沸き上がり、どうしたらそれが可能か、自分がタクシーだとマナに知られずにそれをやるためにはどんな手段があるのか、ベットの中で考えていて、気付いたら朝になっていた。


~なあ、この前のピエロの話だけど、お前もそれをやるのか?~


 美和が話していたそんなことを思い出し、そこからその真崎先生とやらに近づけないか。拓也は昼休憩の時間に美和にラインした。今日は仕事が休みの美和だから仕事が終わる頃には返事が入っているだろう。


 仕事を終えスマホを見るも、まだ美和から返事が入らない。なにやってんだ。既読がついているのに返事を寄越さないとは、何をやってるんだ。


 心の中で毒づきながら、しつこいかと思ったがラインした。


~おい、返事!~


~今、外。あとでね~


 19時頃にそんな返事が入ったあと、次の返事が入ったのは21時を過ぎてからだった。拓也は既にその日のコメントの返事をAIから入れられ、それにした返事のあとAIから次の返事が入らないかと待っているところだった。


~ごめん。ちょうど今日、職場や同業者のクリニクラウンの活動をしている人たちと出掛けてたとこ。みなさんの活動の報告会の後、そのまま飲み会だった。その活動、してみようかなと思ってるけど、なんで?~


 そうか。やっぱ美和はその活動をしようと思ってるんだな。


 拓也は自分もその活動の仲間に入れないかと考えていた。クリニクラウンの活動にはたいして興味はないが、真崎先生と知り合う一番手っ取り早いのはそれだと思ったからだ。


~いや、ちょっとその活動を調べてみたら興味が湧いてな。でもお前がやるならオレは止めた方がいいか~


~え?お兄ちゃんこういう活動に興味あるの?意外~


~そうか?まあ、ああいうピエロの姿は違う人になれるみたいで面白そうかと思ってな~


~ピエロじゃなくて、クラウンだよ。まあそれはいいとして、やってみたいんだったら一緒にワークショップに行ってみる?この前したワークショップの話、覚えてる?まずはそれに参加して、それとは別にクラウンの活動するに当たっては研修を受けて勉強しないといけないんだって。クラウンとはなんたるかとか、あとメイクとかね。それはさ、もう活動をやってる真崎先生たちは参加しないから私も知らない人ばかりだとちょっと不安だし……~


 マジか。そんな簡単な話じゃなかったんだな。と、天井を見上げ溜め息を一つついた。なんだか面倒な気もするけど、いや、でもそういう話題もマナは食いつくこと間違いないだろう。それ知ってます!とか、知り合いにやっている人がいます!なんてな。


~そうなんだ。そうだな、行ってみるかな~


~じゃあさ、次のワークショップの日に行ってみる?ちょうどお兄ちゃんが休みの月曜にあるんだけど、私もテスト前の短縮の日になるから午後なら3時間くらい休めるし~


~わかった~


 美和の話で、そのワークショップは土日休みではない仕事の人でも参加できるように、平日にも活動している日があるという。おまけに泊りがけの研修も多くの人が参加できるように、盆休みにやるという。まあ、つまりそれまでは真崎先生と接触できるかどうかわからないということだが。

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