第81話目 ブロガー3
拓也は自分のブログに戻ると、もし愛美だと思われるAIが訪問してくれて、拓也の読書の記事を遡って、自分と同じような順で紹介が書かれていると気付かれないように、AIと同じタイトルの本の紹介記事のいくつかを非公開の設定にした。表面的には『鎮守の山』を含め、月日が古いもので3冊ほど同じものを読んだことがあるようにしか見えない。
拓也はそれでも何か感づかれることがないようにした方がいいかと思い、スマホのメモを開いてAIがまだ読んでいない本の予約リストをチェックし、先に自分が数冊読んでおくというのも、AIの気を引くにはいいのではないかと、まず、短編集と思われる『宛先不明郵便』なら読みやすいのではないかと見当をつけ、明日の仕事帰りに本屋へ寄ることにした。
それにしてもだ。これはたぶん間違いなく寺井愛美だろう。これだけ自分が知る寺井愛美が読んだ本と同じ順で読んでいる人がいるなんていう偶然は、まずないだろう。
拓也は寺井愛美と思われるAIのブログ活動がどんなものなのか興味が湧き、AIとファン交流をしているブロガーを訪問し始めた。
そして、ネコさん、りょうさん、SUNさんなどのブロガーの記事へのAIのコメントをチェックし、当たり障りのない、けれど心のこもったコメントを好ましく読みながら、あきらかに他のブロガーとは対応が違うように見えるブロガーがいるこに気付いた。MASATOというブロガーだ。
「なんだか随分と親し気な感じだな」
そのコメントからそう印象を受け、このMASATOというブロガーのゲストページを開いた。するとどうだろう、AIのゲストページほどではないが、『書き込みがありません』というページがいくつか続いており、ここに書き込んでいるのはAIだろうか……この感じ、そうに違いない。拓也の頭にある予感めいたものがそう思わせた。それにしても、これはもしやと嫌な予感が沸き上がった。こんなにも寺井愛美と親しく交流しているやつがいるなんて。
そんな嫉妬心を抱えAIのブログへと戻り、目で見えるブログの記事のコメント欄をチェックしたが、そこには特に親し気なMASATOとのやり取りは見つけられなかった。
これは……やはりファンにならないと見えない部分があるのだろう。そう確信めいたものを感じ、早くAIが自分の書き込みに気付かないかな、早くファンボタンを押せないかと、何度もAIのブログに行き、自分の書き込みに返事が入らないかと待った。
そうして待った翌日、『宛先不明郵便』を購入して帰宅すると、まずブログを開いた。
まだ何も変化はない。AIからの返事がゲストページの書き込みにも、拓也のゲストページへの挨拶もなく、まだAIが書き込みをしていないことをチェックし、夕食を食べながら、まず『宛先不明郵便』を読み進めた。
短編集かと思いきや、受け取り手が同じのいろんな背景を持つ人が書いた、出せない手紙とそれにまつわる話が書かれており、連載と違って読みやすく、これは感想も書きやすいかもしれないと、AIより先にこの本の紹介をすることで、AIの気を引けるだろうと思っていた。
そうして本を読みながら入浴も済ませると、パソコン画面の前に座り込み、読書しながらAIからの書き込みを待っていると、その書き込みがなされた。まずはAIに書き込んだゲストページのほうだ。
『タクシーさん、初めまして。訪問と感想をありがとうございました。読書が趣味なんですね。同じミステリーを読まれるなんて、読書談議ができそうで楽しみです。こちらこそよろしくお願いしますね。私もファンボタン押しに行きますね』
「よしっ!」思わず声が出た。
これでAIのブログのファンボタンを押せる。気持ちは逸ったが、すぐにボタンを押すというのも、待っていたように思われるんじゃないかと思い、30分ほど待つことにした。
そうこうしているうちに、拓也は自分のゲストページにも書き込みがあることに気付いた。これももしや……
想像通りだ。AIからの挨拶の書き込みだった。ボタンを押しに来たのだろう。
『タクシーさん、はじめまして。私のゲストページに書き込みをいただき、ありがとうございました。読書が趣味なんですね。私もミステリーが好きなので、これから交流ができればと思います。よろしくお願いしますね。ファンボタンを押させてもらいます。ところで、タクシーさんって、タクシーの運転手さんですか?(笑)』
AI……いや、寺井愛美……「マナ……」
マナと交流ができる。拓也は両手を握って胸の辺りでガッツポーズをし、鳴り始めた鼓動と共に、急に読み進まなくなった『宛先不明郵便』を目で追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます