第80話目 ブロガー2

 鎮守の山か。似たような場所ってあるんだな。


 寺井愛美が返却したその本を、寺井愛美の次に予約を入れ読み終えると、ちょっとしたデジャヴを拓也は感じていた。子供の頃に何度か行ったことのある母親の実家の裏に見た光景に、よく似ていた。


 母親の実家の裏には川があり、その向こうにある山の中腹には神社があり、拓也の微かな記憶にあるその山も、階段を上った先に鳥居があり、そこをくぐってまた数段の階段を上ると本殿があった。この本に出てくる神社によく似ているような気がした。


 そんなこともあり、まさか自分の知っている山が舞台だったりしてな……そんな気持ちもあり、『鎮守の山』を検索にかけた。


 すると、いくつかの鎮守の山の言葉の入るサイトの紹介があり、その中には拓也と同じようにこの本を読み、自分が知っている場所かもしれないという書き込みがあり見てみると、あきらかに拓也の知っている山とは違う場所だった。


 そのサイトに辿り着いたのは、そんな時だった。


 そのブログには、鎮守の山の読書の感想が載せられており、読んだばかりの拓也にも新鮮に映り読み進めた。



     鎮守の山


   こんな場所って、本当にあるのでしょうか?


   防空壕というのは、戦時中に避難をした場所で知られていますが、


   そうしたものの多くは、


   時代とともに埋められたり崩れ落ちたりしているのではないでしょうか。


   けれど、そのいくつかは歴史の形として残されていているのも知っています。


   ですが、人に知られることのないまま、こんな形で使われているなんて、


   なんだか……怖いです。


   でも、自分を苦しめる人、憎くてたまらない人がいて


   この場所を知っていたら、……この本のような行動を起こす人もいるのかも。


   子どもって、純粋だからというか、一つのことが全部になって、


   その幼稚さ、浅はかさで動く子もいるかもしれないですね。


   それにしても、この千絵という子も恐ろしいですけど、


   私はむしろ、主人公のハルの心の中にある闇の部分、


   それが、それこそがこの物語の隠された真実のような気がしています。



 すごい感想だな。主人公のハルは、表面では善が描かれているが、ハルの心の闇はもっと深いところにあるんじゃないかと拓也も感じていた。


 そのブログのその読書記事の前の記事のリンクが下にあり、それを目にして、一瞬、「あれ?」っと、何かを感じた。


 拓也はその読書カテゴリーの前の記事、『流星の夜に』をクリックした。そうだ、自分もそれを読んでいたのだ。この鎮守の山のすぐ前に。


 そこにUPされている『流星の夜に』の読書感想を目に映しながらも素早くスクロールし、その前の記事のリンク先を目にすると、そこには『ある視線」そして同じ動作の次に目にした記事は『提灯祭りの夜』ということは、その前は……やっぱりそうだ。『その道化師の名は』だ。


 その全て、拓也は読んだし、自分のブログで紹介したいくつかの本が間に数冊挟まってはいたが、同じ順序でもあった。そうだ、寺井愛美が読んだ次に読んだのと、全く同じ順序なのだ。


 胸の鼓動がどんどんと大きくなるのを拓也は感じ、そのAIというブロガーの記事の全部に急いで目を通した。が、表面で読める記事のそのほとんどが、読書の感想だった。


「AI」


 これは、寺井愛美ではないか?AIとは、愛美の『愛』の『AI』


 そう思った拓也は、このブロガーとコンタクトを取ってみようと思い、AIのゲストページを開いた。


 するとそこには、何の書き込みもなかった。これは何故だ?おかしいじゃないか。ページ数は100近くになっているのに、遡っても時々書き込みがあるだけで、ほとんどの書き込みが見えないままで、ブログを始めた頃に数件、目に見える書き込みが続けてあるだけだった。でもまあ、ゲストページの使い方はそれぞれで、そこに自分の人に言えないことなど書く場合もあるだろう。


 その時は、そう思った。


 拓也は早速、AIの書いた『鎮守の山』の記事へコメントを書いた。


 『自分もこれ、読みました。自分は男なので、小学生の頃は毎日のように気の合う友達と、ただただ公園で走り回ったりふざけ合ったり集まってはゲームしてたりと、あまり物事深く考えずに遊んでるばかりでした。ですが確かに女子の間では不穏な感じを受けたことがありました。グループみたいなの作って、コソコソしたようなといえばいいでしょうか……そういう中にいた女子の中には、こういったこともあったのかなと、背筋が寒くなるようでした。そしてAIさんが書かれている、ハルという少女の深い部分に隠れた闇の部分、そういうところに気付かれるAIさん、思慮深い方なのだなと感じ入りました』


 そのコメントの他にゲストページに挨拶を残した。それはキチンと、公開の形にした。


 『AIさん、はじめまして。今、鎮守の山にコメントを残させてもらいました。自分も読書好きで読まれる傾向も似ているようなので、これからも交流をさせていただきたいと思います。ファンになっても構わないでしょうか?』


 そう、書き込んだ。勝手にファンになるのではなく、キチンと了解を得てからにしよう。ファンになるボタンはすぐそこにあって、了解を得ずに事後報告のようにファンになりますとできるのだが、AIに対しては、そのほうがいい。そういう誠実な面をAIに対しては見せておきたいと思ったのだ。


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