第68話目 交流50
前夜に今日は来られるかわからないとMASATOから書き込みがあったことで、愛美は休日の日曜、いつもの休日の過ごし方である、読書とお菓子作りでその昼間を過ごそうと思っていたところ、美菜がまた図書館に行きたいと言い出した。どうやら中学では今、朝、5分間読書という時間を設けているらしい。愛美が通っていた頃にはそんな時間はなかったと記憶しているのだが。
その時間、集中して読書をすることで、集中力を身につけると同時に、その時間を設けることで1時間目の授業にも集中力を持って臨めるとかなんとか…らしい。
そんなわけで、そのくらいで集中して読めるような本を探したいのだそうだ。叔母の美弥か図書館員の坂本に相談してみようと思っているようだ。愛美は、あの坂本の気になる視線を一瞬思い浮かべたけれど、自分も読み終えた本を返すと同時に新たに何か借りて来ようか。そんな気になった。
図書館に着くと、美菜は早速カウンターにいる坂本を見つけ、坂本に話しかけると、坂本はパソコンを使いながら検索しているようで、画面を見、メモ用紙に書き込みを何度か繰り返していた。
美菜がメモを持って愛美に近づいてきた。
「お姉ちゃん、リクエストしておいた本がもうすぐ届くみたいよ。予約してたのもさっき返却されたんだって」
「そう。じゃあリクエストのやつが届くまで待ってようかな。また来なくていいしね。あとで喫茶コーナーに行こうか。美菜は?いいのあった?」
「うん。そういう5分読書用の短編があるんだって。あと短い時間で読めるやつもいくつか借りてく」
そうなんだと思い、カウンターに目をやると、こちらを向いていた坂本と目が合った。探してくれたお礼のつもりで、愛美は軽く頭を下げてすぐに違う方を向いた。
お気に入りの作家については下調べがついていたので、愛美は新作コーナーで何か面白そうなものはないかと探していると、坂本がワゴンを押しながら返却された本を棚に戻し始めた。きっとそのうちここにもくるのだろう。と思っているが早く、ここに来た。
「先ほどは妹の本を探していただいてありがとうございました。叔母が休みだと知らなかったから助かりました」
「いえ、いつでもご相談ください。そういえば、来月には柴田さんの新作も出ますよ。図書館に並ぶのは再来月になると思いますけど」
「そうなんですか。まだチェックしていませんでした。しばらく出版されていなかったので、長く休まれているのかなと思っていました」
「そのようですね。満を持してのミステリーのようですよ。またご予約下さい。それからリクエストされてた本がもうすぐ届きますので、きたらお知らせしますね。とっておきます」
「はい。私のほうまでありがとうございます」
新作コーナーから面白そうなミステリーと、予約していた本を1冊受け取ると、同じく5冊ほどを借りた美菜と、2階の喫茶コーナーで読書をしながら時間を潰していると、ほどなくして坂本がやってきた。
「寺井さん、リクエストの本が来ましたよ。帰りにカウンターに寄ってください」
「わざわざすみません。ありがとうございます」
愛美がそう返事を返していると、あきらかに意味ありげな目を向けてきた美菜が、
「ねえねえ、坂本さんってさあ、お姉ちゃんに気があるのかもよ。だってわざわざリクエストの本まで取っておいてくれたり教えにきてくれたりさあ、さっきも本を探してるとき、坂本さん、お姉ちゃんのほう見てたし」
「バカなこと言ってんじゃないの。美弥ちゃんが働いているから気にかけてくれてるだけよ」
「そうかなぁ……なぁんか、そんな気がするんだけどなぁ。坂本さん優しいし、いいじゃん?」
「じゃああんたが付き合ってもらえばいいじゃん」
「私じゃひと回り以上も違うし」
「私だって、だいぶ上になるでしょ。ないないない、ないわ」
そう言いながら、でも考えてみたらMASATOとも10歳くらい差があるんだ。そう思うと、たぶん坂本の方が歳は近い。と、だからそういうことじゃないんだってば。
本が届いたと聞き、カウンターに行くと、坂本が待ってましたとばかりリクエストしていた本を予約の棚から取り出してきた。挟んであった予約の紙を抜き出しているところを目にし、あれ、まだ予約はしていなかったはずだと、先回りして予約を入れてくれていたのかと、なんだか複雑な心境になったが、そんなところをおくびにも出さずそれを受け取った。なぜか、そんなこと言わないほうがいいかなと思ったからだ。いや、気付かぬふりをしたのだ。美菜が言っていたその気持ちがそこにあるかもしれないと、以前からなんとなく感じていた直感がそうさせた。
帰宅し、遅めの昼食を済ませると部屋へ行き、早速昨日の続きを読んでしまおうと思ったが、もしかしたらという微かな期待があった。MASATOが、朝、来てくれたことがあったからだ。もしかしたら出かける前にという気持ちがあったため、ブログを開いた。
すると、予想通りにMASATOからの書き込みがあった。
『今夜、来られるかわからないから、今、AIさんの言葉に会いに来ました』
MASATOのその言葉を目にし、昨夜感じた「きゅん」が、また身体を突き抜けた。
やっぱり来てくれてたんだ。嬉しい。
『MASATOさん、こんにちは。出かける前に寄ってくれたんですね、嬉しいです。今、ブログを開けてMASATOさんがここにいてくれたことが、本当に嬉しい。今ごろは会合が始まっているのかしら?明日の報告、楽しみにしていますね。今夜は飲み会とのことですが、明日は仕事でしょうから、飲みすぎ注意ですよ(笑)』
「きゅん」を抱えたまま、そう書き込んだ。
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