第58話目 交流40
愛美は早々に風呂を済ませると、急いでブログを開いた。すると、MASATOの新着記事の更新があった知らせが付いていた。
早速その『今夜もラーメン』の記事を読んでみると、すぐに昨夜話した〇△ラーメンだと気付いた。UPされた写真を目にしただけで、いつものあの香りが鼻をつき、お腹はいっぱいなのに、昼食にもラーメンを食べたのに、また〇△ラーメンが食べたい口になってきていた。
愛美はその記事にコメントを残すと、今日の記事をどうするかを風呂の中で考えていた、以前読んだ読書の記事を書こうかと思い、記事を書く画面を出そうとして、ゲストページにNEWの文字があることに気付いた。
もしかして……
その期待はたった一つのクリックで現実となった。予想通り、MASATOだ。
その書き込みを読んで、たった今、MASATOの記事にコメントで残した〇△ラーメンで当たりだったことが嬉しかったし、昨夜の話題から食べたくなって実際作って食べてくれたことが本当に嬉しかった。そしてMASATOが指摘したマドレーヌの記事を見に行くと、確かにネコさんからそのようなコメントが入っていた。が、迂闊だとは思っていなかった。それよりも、MASATOと言葉のやり取りをした、それができたことの方が愛美には重要だったのだ。
いつも慎重に慎重を重ねていた愛美にとって、この緩みはMASATOへの想いでかき消されてしまっていた。
『MASATOさん、こんばんは。……おかえりなさい。〇△のラーメン食べてくれたんですね、嬉しいです。美味しいって言ってもらえてよかったです。私は子供の頃からラーメンといえば〇△のラーメンだったので、外で食べるときにもだいたい塩味のラーメンを選んでしまいます。なので違う味にチャレンジしてみたいと思っていて、MASATOさんが夕べ食べたというラーメンも、いつか食べてみたいです。それから、記事のネコさんのコメントも読んできました。言われてみれば独り言のようですね(笑)記事の内容と違っても全然大丈夫ですよ。むしろたくさんお話しできて、とっても嬉しかったです。今日もMASATOさん、来てくれるかな……と、ちょっとだけ期待してしまいました(笑)』
これでいいかな?と、愛美は2回ほど読み返して投稿した。
MASATOは今日来てくれるだろうか?MASATOが来てくれるのを待つためには、何か記事を更新しなければと、以前読んだ読書の記事を書こうとしていたが、もうその必要はなさそうだ。この書き込みを読めば、きっとまたMASATOは書き込みをしてくれるだろう。……昨夜のように。
そしてその期待はすぐに現実のものとなった。
『AIさん、……ただいま。記事へのコメントもありがとうございました。やはりAIさんにはすぐにわかってしまいますね。〇△のラーメン、久しぶりに食べたんですけど、こんなに美味しかったっけ?と思いました。それから、昨日自分が食べたラーメンね、あれ、金蔵っていうお店なんだけど、知ってますか?あの山の麓にもあるんだけど、自分の職場のある市にもあってね、そこが本店なんですよ。機会があったら行ってみてください。自分の懐かしい味も、AIさんにも是非とも食べて欲しいです。それから……自分を待ってくれて嬉しいです。自分も、今日もAIさんと話したいなと思っていました。ラーメンの話とかね(笑)記事に内緒で書き込みをしてしまうと、他のゲストさんに独り言に見えてしまうので、これからはゲストページに書き込むようにしますね』
やっぱり金蔵のラーメンで当たりだったか。MASATOのその書き込みを読んで、昼食に食べた金蔵のつけ麺が、昨夜MASATOが食べたラーメンだとわかり、お互いの口に馴染んだラーメンを同じ日に食べたことが嬉しく、すぐにそれを伝えることが出来ないことがもどかしく、昼間聞いたその声を、MASATOの言葉に重ね合わせ、その音の響きを耳に感じていた。
それにしてもだ。真崎先生、自分の職場のある市に本店があるなんて、それを言ってしまうなんて、不用心ではないか。もしAIが悪意にまみれた人間でMASATOというハンドルネームを持つのが誰なのか、知ろうと思えば知ることが出来てしまうほどのことではないか。そんな心配もしつつ、そこまでAIを信用してくれていることも感じ、嬉しくもあった。
でも、私はそこまで自分のことを詳しく語ることはできない。MASATOがAIの正体を知れば、MASATOはここから消えるだろう。だって、AIは、MASATOの勤める学校の生徒なのだから。だから、だからAIが誰なのかは、絶対に誤魔化し続けなければいけない。
それにしても、今日もAIと話したかった。これからはゲストページにという言葉には、胸の高まりを抑えることが出来なかった。嬉しい。嬉しい。嬉しい。MASATOの気持ちがAIに向いている。それは夢のような感情で、ブログを始めた当初、MASATOと交流を持てるようになるといいなと、軽い気持ちでいたものが、どんどんMASATOに惹かれていき、それは恋心に似たものになっていることに気付いていた愛美にとっては、MASATOの存在は、とても大きなものになっていた。
『MASATOさん、昨夜のラーメンは金蔵というお店だったんですね、そのラーメン屋さん、聞いたことがあります。でも行ったことがなくて、是非行ってみたいです。私もMASATOさんの懐かしい味が知りたいです。あっ、明日仕事休みだから明日行っちゃおうかな?なぁんて(笑)私、昨日も書きましたけど、つけ麺って経験がなくて、あれは……具材を麺と一緒に浸けて食べるんですか?それとも、具はスープに入れちゃうとか?って、そんなこと聞くなんて、変ですか?(笑)』
『いやいや、変じゃないですよ。なんにしても、はじめてっていうのは構えるものです(笑)自分はね、まずスープをひと口、それからまず麺だけでひと口、それからタマゴ以外は入れてしまうかな。タマゴはね、スープに入れてしまうと黄身が崩れたりするんで、タマゴだけは食べるときに少し汁を掬うようにして黄身に味をつけて食べます。……って、なんか食べ方を話すって、少し恥ずかしいかも(笑)明日、行きますか?じゃあ、自分も……と、さすがに間一日空けて同じ店って、それも恥ずかしいかな(笑)』
『MASATOさん、この前、サーフィンの帰りにも二日続けて同じラーメンって書いてましたよ(笑)よほどのラーメン好きみたいです。食べ方を話すのって、恥ずかしいって……ちょっとわかる気がします。聞いちゃってごめんなさい。でもとっても参考になりました。私も行くことがあれば、その食べ方でやってみますね。明日は髪を切る予定なので、実際、明日行けるかどうかわからないですけど』
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