第48話目 交流30 MASATO

 『……ただいま。えーっと、もしかして、待っててくれたのかな?なあんて、自惚れかな……ラーメンはね、今日は子供の頃から行っていたところでね、実家からも近くて、そこのつけ麺が好きなんです』


 こんなコメント、書いていいかな?待っててくれた?なんて、本当に自惚れもいいところだな。でも、そんな気がする。夜、山に行ったことを心配してくれているみたいだし、さっきのコメントにすぐに返事が入ったんだから、きっと、……待っててくれたんだよな。


 直人はAIの、『おかえりなさい』の言葉の裏側には、待っていたという言葉にしない気持ちが込められていると感じていた。こんなふうに感じたのは初めてだ。実家でも、帰るたびに「おかえり」と言われてきたけど、そうだな……「おかえり」には、待っていたという気持ちがそこにあって、ここが自分の居場所なんだって、無意識に、そこにいるのが当たり前のことだと知ってたんだ。


 直人は内緒というボタンをクリックして、コメントを投稿した。すると、ほどなくしてAIからの返事が入った。


 『はい。夜だったし、大丈夫かなって……でも慣れたところなら心配いらなかったですね。そこで、どんなこと思ってたんですか?明日から頑張ろ――とか?(笑)ラーメン、どんなのかとっても気になります。私、つけ麺って経験なくて……あっ、ごめんなさい。こんな時間にあれこれ聞いちゃったら休めなくなりますね。明日のこともあるし、早く休んでくださいね』


「やっぱり。……待っててくれたんだな」


 直人はその気持ちが嬉しかった。お互い、名前も顔も知らない同士なのに、何故か感じるこの安心感、これはどうしたことかと自分でも不思議なほど、AIという人に気持ちを揺さぶられいている。


 これはきっと、塔子とのことがあったばかりだからだろう。塔子に感じる不信感、自分の腕の中にいたのと、そう時間をおかずに他に気になってた人がいた。好きな人がいる。などと告白され、だったらなんで一緒に夜を過ごすことができたのだろう、何故悦ぶことができたのだろう。塔子という人が、女という生き物が全部忌まわしく感じていたとき、このAIの誠実さを感じたことに自分は救われたんだ。……この人は、優しい。


 『心配してくれてありがとう。そうだね、明日はいつもより少し早めに行こうと思っているけど、でも……もし、AIさんがよければ、もう少しだけ……』


 『私は大丈夫ですよ。実はね、さっきちょこっと居眠りしちゃって、だから今、目が冴えちゃってます(笑)』


 『居眠り?大丈夫?眠んじゃない?ごめんね、待たせちゃったね。ラーメンなんか食べてこなきゃよかった(笑)』


 『ラーメンって、それって夕食ですよね?だったら食べてきて正解ですよ。つけ麺っていうと、イメージとしては汁は醤油味なんですか?それか、担々麺みたいな辛い感じですか?』


『うんとね、ここは魚介の出汁が効いた醤油味なんだ。美味しいんですよ。割と有名でね、県内でもこの市の周辺にはいくつか暖簾分けされてあるんです。だからここじゃなくて別の店でも食べるんだけど、でもやっぱり子供の頃に食べたこの店の味、どこも同じなんだけど微妙に違う何かを感じるんです』


 『違う何かっていうのは、親に護られていた安心感の中で食べた、その味なのかもしれませんね。じゃあ、MASATOさんはラーメンは醤油味が好きなんですか?』


「護られた味か」


MASATOはそのAIの表現がなんとも優し気で、心がほっこりしたのを感じた。心がほっこりなんて、言葉ではよく聞くけど、それがどんな感じなのか実際よくわかっておらず、それでいて使っていたこともあるけれど、今、AIのこの言葉を読んで感じたこの心のぬくもり、これこそが「ほっこり」なんじゃないかと感じた。


 『そうですね、醤油味が多いかな。でも味噌も食べるし、塩も豚骨も食べることもありますよ。ラーメンって、ネットやテレビでも特集やったりしますよね。それで美味しいと評判になってるお店で食べるときは、そのお店のお勧めを食べてみたりします。それで自分の好きな味を見つけていくみたいなね、そんな感じです。ところで、AIさんはどうですか?何味のラーメンが好きなんですか?』


 『私はですね、塩味が多いかな。お店によっては醤油味も食べますけど、即席めんですが、〇△ちゃんの塩ラーメン、これは実はかなり好きです。それこそ、子供の頃から食べてるというか(笑)』


「えっ?〇△ちゃんの塩ラーメン?」


 MASATOには、そのラーメンに対しての知識が少しあった。


 その〇△ちゃんっていうのは、自分が住むこの県内に工場がある企業で、このラーメンは、確か県内でしか売っていないものだ。


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