第43話目 交流25
朝目覚めると、愛美はすぐにパソコンを立ち上げた。
昨夜、『おやすみなさい』をしたのだから、MASATOから書き込みはないだろう。それはわかっていたが、昨夜のMASATOとのやり取りをまた目にしたくなったのだ。
そのやり取りを目にして、昨夜は間違いなくMASATOと話をしていたのだと、改めて嬉しくなり、それらを目にしたあと、MASATOのブログへと飛んだ。MASATOのバトンの記事へ書いたコメントと、MASATOからの返事を読むためだった。昨夜一度読んだのだが、それももう一度読み返したいと思ったからだった。
「マナ――起きた~?」
階下から声がし、時計に目をやると7時をだいぶ過ぎていた。
急いでパソコンを消して、着替えて階下に行くと、両親と美菜は既に食卓に着いて食べ始めていた。父はもうほとんど食べ終わるところだった。
「マナ、今日、10時に美容院予約してあるから美菜と一緒に行ってきて。明日は美菜の入学式だからね、マナも学校が始まるから少しだけでも切ったほうがいいよ、毛先も傷んでくるしね。ちゃんとしてきてね」
「はいはい」
自分はどうせ結んでしまうんだからどっちでもいいやと思いながらも、胸の辺りで毛先を持ち上げてみると、確かに痛みが出ていることに気付く。
「今日のお昼はコンビニで買ってきてもいい?美容院の帰りに寄ってくるし」
「うん、いいわよ。スイーツもたまには買ってみたら?」
言われてみたらしばらくコンビニスイーツを買っていない。すぐに思い浮かんだのは、先日テレビで紹介していた生クリームたっぷりで小豆入りのどら焼きで、それでも買ってみようかと思いつつも、意識は何かチーズ系のスイーツはないだろうかと、そちらに向かった。
朝食を終え、母の留守の休日のいつもの家事を済ませ終えたのは、美容院に行くために家を出る1時間ほど前だった。このくらいの時間ならば、今までならば本でも読もうとするところだが、やはり気持ちはパソコン、ブログへ向かっていた。
「美菜、家を出るまでお姉ちゃん部屋に行ってるから。あんたテレビ観てるんでしょ?何か用があったら呼んでね」
うん、と頷く美菜を目にし、階段を上ろうとリビングを出ると、そういえばアボカドの水を替えてなかったと洗面所に向かった。
小窓のところに置いてあるアボカドの水を替え、ふと鏡に映る自分を見た。特に意味はなかった。胸が隠れる辺りまで伸びた髪はウエーブがかかっており、昨夜MASATOと話したことが頭をよぎる。
「少し切ろうかな」
学校では結んでいる髪を解いたとき、もう少し短い方がいいかもしれない。ストレートの髪ならば、長くてサラサラして綺麗だけれど、ウエーブがかかっていると広がってしまう。これだと外でMASATOに会えた時、綺麗に見られないかもしれないし……
愛美は昨日コンビニの駐車場で真崎先生を見たときのことを思い出していた。あんな偶然が絶対ないとは言えないのだから、いつもちゃんとしていなきゃと鏡の自分を見ながら頷いた。
部屋に入ると、一度消したパソコンを立ち上げた。立ち上がるまでのほんの少しの時間で、美容院に行くときに持って行く手提げにショルダーバックから取り出した財布とポーチ、図書館で借りてきた本を入れた。美容院にも雑誌が置いてあるが、愛美は基本的にはそういう待ち時間は小説を読むようにしていた。
パソコンの前に座ると、いつものようにアイスコーヒーに手を伸ばそうとして、「あ、今日は入れてないんだった」と、パソコンに向かった。
ブログを開くと、自分のホームにゲストページへ新着を知らせるマークが付いていた。
「ん?誰かな?」
MASATOだった。
『AIさん、おはようございます!今朝、ちょっと早起きしたので出かける前にブログを開いてました。そしたらAIさんの履歴がついたので、嬉しくてつい覗いてしまいました。昨夜は相手をしてくれてありがとうございました。一人の寂しい夜を楽しく過ごせました(笑)』
「えっ、履歴……そっか、訪問したから履歴がついたんだ。MASATOもちょうどブログ開いてたんだ。あっちゃー……気付くの遅れたー」
MASATOは自分から返事が入るかもと待っていたのだろうか。どうしてすぐ気づかなかったんだろう。もし待っていてくれたなら、ガッカリさせてしまったんじゃないか。すぐに返事を入れれば、お昼休みに目にするかもしれない。
愛美は時計に目をやった。もう9時をっとっくに回っている。普通に外で働いている仕事中なはずの自分にはそれはできない。お昼にMASATOはここにくるかもしれない。だから、そのときに読めるように、自分も昼休みに来てみたんだという体でコメントを残せれば、MASATOもまた書き込みをくれるかもしれない。
愛美はすぐパソコンを閉じた。家から10分ほどもあれば行ける美容院に、50分に家を出ればいいやと思っていたが、40分ごろには出ようと時計を見た。少し早めに行っても大丈夫だろう。早ければ待てばいいし、もしかしたらすぐにやってくれるかもしれないし。できるだけ早く家に帰ってきたい。
なかなか過ぎていかない秒針を眺めながら、返事をなんて書こうかと考えようとしたけれど、全く集中できずに、ただただ動く秒針を眺めていた。
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