第25話 交流7

 愛美は夜になって新たに更新のあったネコやSUNのブログを再び回りコメントを残して、先程書いたコメントに返事が入っていればそれを読みに行ったり、自分のところに書いてもらえたコメントを読んだりと、そんなふうに時間を過ごしながらも、その間にも何度もMASATOのブログを覗いていた。


 そんなことを何度繰り返しただろう?

 

 何度目かに開いたMASATOのその記事に、MASATOからのコメントの返事が入った。


 『内緒さん、するどいですね(笑)大丈夫ですよ、うん、大丈夫。こんな記事を書くなんて、自分も多分、今は相当参っているのかもしれません。吐き出したら少しは楽になるのかなと思って書いてしまいました。ありがとうございます』


 内緒さん。……か。これはやっぱり、さつきさんなんだろうな。


 それにしても、この返事だと自分が記事から想像したMASATOの心の内と大差なく思う。コメントをどう書こう。どう書いたらMASATOの心は救われるのだろう?


 自分の記事を更新したのだから、それが予約での投稿かどうかなんてMASATOや他のゲストたちにはわからないんだし、今、パソコンの前にいると思われているかもしれない。となると、もらったコメントに返事を書かないのも変に見えるかもしれないし、MASATOが書いた記事にコメントがないことも、不自然に思われるかもしれない。


 そう思った愛美は、なんとかコメントを残そうと、書き始めた。


 『大丈夫ですか?文章から辛いお気持ち、伝わってきます。どうにかMASATOさんの心の慰めになるような言葉をかけたいのですが、かける言葉が見つかりません。ごめんなさい。でも、吐き出してください。書くことで楽になることって、あると思いますから』


 さんざん悩んで、コメントを投稿した。どんな言葉も上滑りしそうだったので、正直な気持ちを書いた。もちろん、内緒で。


 次に、自分のところに書いてもらったコメントに返事を入れた。


 『MASATOさん、ありがとうございます。私たちは2人姉妹で、妹はまだ学生なので旅行は保護者気分で仲良く行ってきました(笑)MASATOさんも早いもの系が苦手になってるんですね。あれ、不思議な感覚ですよね。子供の頃には好きだったのに。MASATOさん、アメリカに行ったことがあるんですか!?羨ましいです。私は海外旅行なんてまだ行ったことないんです。よかったらそんな話もまた聞かせてもらえたら嬉しいです』


 努めて明るい感じのコメントにした。そしてMASATOの気持ちが少しでも辛さから逸れることができたらいいなと思い、アメリカの話を聞きたい風も装った。


 そしてここには、自分の情報も入れ込んた。妹が学生と書いたのは、MASATOにAIは自分より年下で社会人だろうと印象付けるためだった。この書き方ならば、そう思われるはずだ。


 『ネコさん、ありがとうございます。夏に行く予定なんですね。3泊でディズニー三昧なんて、羨ましいです。お子さんたち、それは楽しみにしているでしょうね。今から楽しみですね』


 続いてネコさんへのコメントの返事も書いた。ネコさんも、自分の公開記事の中では子供のことは書かないが、愛美のこのファン限定の記事の中のコメントには、子供のことにも触れていた。愛美と同じで、全体に公開する記事には細心の注意を払っている節がある。こういう人には注意が必要だ。愛美の公開記事や、ネコさん本人の公開記事の中で、ネコさんの子供のことには触れてはいけない。そういうことだろう。


 『SUNさん、ありがとうございます。はい、ディズニーに行ってきました。お天気が良くてよかったです。楽しかったですよ。あっ、空の写真もちゃんと撮ってくればよかった……忘れちゃいました(笑)』


 SUNさんの空の記事に、旅行に出かけるので晴れるといいなと書いていたので、SUNさんからはその話がコメントに書かれていたのだった。


 そうしてコメントをいくつか書いてからMASATOのブログへ飛ぶと、愛美が入れたコメントに返事が入っていた。


 『21:27の内緒さん、ありがとうございます。大丈夫ですよ。心配させちゃってごめんなさい。お気遣いありがとうございます。こんなコメントもらって嬉しかったし、少しだけ心が楽になっていますよ』


 胸がキュンとなった。


 恋愛小説や映画なんかで、胸がキュンなんて表現や言葉が出てくることがあるが、そんなところで胸がキュンなんて、ある?と、愛美はよくそんなツッコミを入れていた。が、胸がキュンって、本当にあったのだ。まさに今、愛美の胸がキュンって、なったのだった。コメントに書かれたMASATOの言葉の優しさ、それを瞬間的に感じ取ったのだ。


「MASATO……さん」


 キュンとなった胸が目頭を熱くした。


 その感覚に、愛美は狼狽えつつも身体中を包み込む温もりにそれを変えた。

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