第18話 出会い17



 ベットにうつ伏せになり、読書をし易い体勢をとると、愛美は昨日挟んだ栞のページを開いて読み始めたが、それに集中などできるはずがない。そのページを開いたままで、頭の中ではMASATOにどう返事を書いたらいいか考えていた。


 あっ、そうだ、変な時間にコメントを書くと、何をしている人?って、思うよね。でも昨日も午前にコメントの返事を入れちゃってる……これじゃあ、普通に働いている人だと思われないかも。でも、MASATOだって、そんな時間に記事書いたりコメントしてたり……でも、春休み中の先生なんだから可能、なんだよな。

 

 愛美は自分が『高校生』だということを誤魔化すために、なんとかしなければと思っていた。


 まだブログを始めたばかりだ。昨日の日中ブログをやっていたことは、きっとどうにでも誤魔化せる。そもそも、MASATOがそんな細かいところに気が付くかもわからないし、今朝のMASATOのところにあった自分の履歴だって、時間までは書いてないのだし。


 とにかく、自分が高校生であること、MASATOを知っていること、同じ学校にいることを決して悟られないようにしなければ。


 なんにしても、MASATOへの返事は夜にしよう、MASATOのところへ書き込みをするのも、夜にしよう。


 あれこれ考えていると、玄関が開いたことに気付いた。


「マナ――」


「あ、ヤバイ。洗濯物入れとくって言ってたんだ」


 母の呼ぶ声にそれを思い出しリビングに行くと、母が洗濯物を取り込むところだった。


「ごめん、そろそろ入れようと思ってたとこだった」


「ううん、いいよ、まだ3時過ぎたところだし、間に合うようにと思って帰ってきたの」


「ゆっくりしてくればよかったのに」……これは本心だ。


「お姉ちゃん、おやつだよ」


「そうそう、マドレーヌ作っておいたんだ」


「そうみたいね、ありがとね。でもケーキも買ってきたんだ」


 ケーキ買ってきたんだ。じゃあ、マドレーヌいらなかったな。そう思いながらマドレーヌに目をやると、


「これなら明日、車でも食べられるからさ、持って行こうよ」


「そうだね」


「でも私、お姉ちゃんのマドレーヌも食べたい!」


「美菜、そんなに食べると太るよ」


 母に言われ、美菜が口を尖らせブーっとした顔をした。


「さあ、ケーキ食べよう。マナの好きな普通のショートケーキ買ってきたよ」


「私、プリンパフェ。お母さんもショートケーキなんだよ」


 マドレーヌ2個目、まだ食べてなくてよかった。さすがに2個食べたあとじゃあケーキなんてとてもじゃないけど怖くて食べられなくなるところだったと思っていると、ズバリそれを言い当てられた。


「お姉ちゃん、マドレーヌもう食べたんじゃない?」


「ううん、おやつ用に作ったばかりだからまだ食べてないよ」


 誤魔化した。


 そんなやり取りをしながらケーキを食べコーヒーを飲み、美菜が買ってきた新しい文房具の話や手提げバックの話を聞きながら、いつもの日常を過ごしていると、いつの間にか心の動揺が鎮まっていることに気付いた。


「マナも美菜も、もう明日の準備をしちゃいなさいね。明日の朝は早いからすぐに出られるようにしておいてね」


「もうほとんどできてるよ」


 その美奈の言葉に同意するように頷き、「じゃあ、最終確認しとく」と返事をすると、愛美は早々に自分の部屋に戻った。大事なことを忘れていたことに気付いたからだ。まだデジカメを自分の部屋に置いたままだったし、マドレーヌの写真も取り込んでいない。


 部屋に戻るとパソコンをつけ、それらの作業をしたあと、マドレーヌの写真をブログ用にサイズの編集をして再びパソコンの電源を落とした。


 その間に美菜が買い込んだものを持って部屋に行ったらしき、隣の部屋で何やら音がしている。美菜がいつ愛美の部屋のドアを開けるかもわからない状況で、パソコンを、ブログの画面を開いていたくなかったのだ。


 夕食後、明日のために早めにお風呂にという母の言葉で早めの風呂を済ませると、愛美は部屋に戻りパソコンをつけた。


 夜、美菜は寝る瞬間まで下で過ごす。まだしばらくは上がってっこないだろうし、寝るために上がってきたときに愛美の部屋を訪ねることは滅多にないので、落ち着いてブログに書き込めると思ったのだ。


 本当はそんな心配をする必要をなくすために、画面にパスワードの設定をしたいところだが、それもしないというのが、パソコンをもらうときの約束だった。

隠すようなことをしてはいけないということだ。


 愛美はまず、自分のゲストページのMASATOの書き込みに返事を入れた。


 『MASATOさん、はじめまして。MASATOさんもアボカドを育てることに興味があるんですね。私も始めたばかりで上手くできるかわかりませんが、育つといいなと思っています。MASATOさんも育てるようでしたら、参考にさせてもらえると有難いです。登録もありがとうございました』


 そう書き込むと、記事へのコメントの返事も似たようなことを書き、MASATのブログへと飛んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る