第15話 出会い14 MASATO



「あ、そうか。AIって、昨日覗いたブログの管理人だ。履歴を辿ってきてくれたのかな」


 塔子は自分の家から持ち込んだ細長いコップの縁いっぱいに水を入れてアボカドの種を置き、


「アボカドの種って、水耕栽培で芽が出て育つんだよ。直人もやってみなよ。この部屋は緑がないんだしさ、植物が育つの見るって楽しいよ。だから忘れずにちゃんと水をつけ足ししてね」


 そう言って、窓際のサイドボードに置いたアボカドの種からようやく芽が出て伸びてきていたそれを、別れを告げられた日に、そこからもう二度と姿を見せることない玄関ドアに向けて投げつけて、もう水などくれてやるものかと心の中で種に向かって怒鳴りつけた。


 が、往生際が悪いと思われるだろうが、スーパーに行けばどうしてもアボカドに目が行き、数日経ってから塔子の好きなアボカドを買い、塔子がよく作ってくれたトマトとアボカドのサラダを作り、水を満たしたジャムの空き瓶の上に種を乗せた。


 なぜそんなことをしようと思ったのか、自分でもよくわからない。


 これが育ったら、塔子が戻るかもしれない。そんな気持ちがあったのか、それとも塔子のそれより大きく育てることができたら、なにか超えることができるかもしれないとでも思ったか、自分でも上手く説明はつかない。


 が、直人はそうして平常心を保とうとしていた。今まで通り、何もかも今まで通り、そう思うことで仕事に支障をきたさないようにしていたのかもしれない。


 そんなアボカドは、芽を出すことがないままひと月が過ぎていった。記事には、水をやり忘れたと書いたが、本当はわざとそうしたのだ。窓辺に置いたそれは、水を少しずつ蒸発させるように減り、気付いたときには種の底の部分が水に浸っておらず、カラカラになっていた。


 ちゃんと育てたい反面、芽を出さない、出させたくない、そんな気持ちも心の中にあった。

 直人は訳の分からない自分の感情と向き合うのに必死だったのだ。


「もう一度やってみよう」


 このままでいることが悔しく、やはりなんとしてでも、投げつけたアボカドより大きくしたい。自分の方がちゃんと育てられる。それができたら、塔子の気になる男より上位に立てる。……そんな気がした。


 昨日、ふと、アボカドなんか育ててブログに載せている人がいるのかなと思い検索していた。すると思いのほかそれが多いことを知った。その中で、今も継続してやっているブログを探していた時に見つけたのが、『AI』だった。


「この人もアボカドを育て始めたばかりなんだな」


 昨日、そう思った人が自分のブログを覗いてくれたようだ。きっと、自分の残した履歴から訪ねてくれたんだろう。MASATOは、その履歴から再びAIのブログへと飛んだ。


 AIというブロガーがどんな人なのかと、MASATOはAIのブログに書かれた記事を読もうと、記事一覧を開くと、昨日見たアボカドの記事が2つ目で、開設日を見るとブログ自体が始めたばかりの人だと知り、


「始めたばかりなんだな」


 MASATOは、ブログにまだ慣れていないであろうAIのゲストページを開いた。


「書き込みもまだ少ないな……」


 そう思い、


 『AIさん、はじめまして。ブログ始めたばかりなんですね。ブログの世界へようこそ。自分もアボカドを育てようと思っているので、これから交流をさせてください。よろしくお願いします。ファン登録していきます』


 ゲストページにそう言葉を残し、AIのアボカドの記事にもコメントを残すために開いた。


 『こんにちは。アボカドはやはり水耕栽培がいいんですね。自分も一度やって失敗してるんですが、またやってみようと思います』


 そうコメントを書くと、コメント欄の『テツ』という人もアボカドに詳しそうなので、そのブログへと飛んだ。


 MASATOはテツのブログでも、AIのところと似たコメントを残して自分のブログへ戻り、夜にしようと思っていた今朝の記事にコメントをくれたさつきとニコにコメントの返事を入れると、そろそろ買い物に行こうかなと、パソコンの電源を落とした。

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