10

僕が欲しかった目につける道具は、中にいた獣の頭の近くにあった。



そっと手に取り、外へ出る。



それは僕には大きすぎて、片目分で顔全体を覆うことができた。



それを掲げたまま、僕は初めて大きな月を見上げる。



丸くて、大きな月。



とても美しく、それになんだか恐ろしい。



その存在感の大きさに、見上げていると、落ちてきて僕を押しつぶすのではないかという錯覚に陥った。



足がふらつく。




小部屋の中で、獣の声がした。



焦ったとたん、視界がぐらりと揺れて、顔を覆っていたものを落としてしまった。



――肉眼で、月の光を見た。



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