第23話 旧友の巻 その三

 本日から高校の寮に入る……と言う事で、巨大なスーツケースの中には美奈が用意してくれた下着の着替えやパジャマ、それとありとあらゆるケアする的な……なんか色々。


「えーっと……あれ持たせたし、これも持たせたし……」


 美奈は玄関先でスーツケースを装備された俺の前で、指折り確認。もういいだろ、これ以上持たされても荷物増えるだけだし。


「今日は正宗に車で送ってもらってね。電車でその大荷物だと迷惑だろうし」


「まあ、俺も疲れるからそれはいいとして……美奈さんよ。これはなんじゃ」


 スーツケースとは別に、ビニール袋も持たされている俺。そしてその中には……女性特有の、あれ専用の用品……。あんまり言うと女性読者から顰蹙買いそうで言えないが、とりあえず女性なら誰でも知ってる奴!


「……梢って、来るよね?」


「……何が」


 いやいや、あれよ、あれ、と意味不明な言動をする美奈。いや、皆までいうな! 俺だって高校生! そこまで言われれば分かるわ!


「俺と契約してるFDWによると……その兆候はあるそうだ」


 美奈には見えないが、隣でうんうん頷いてるロリっ子、ラスティナのお墨付き。俺の体調を常に管理してるラスティナによれば、そろそろ……だそう。つまり美奈に持たされたこれを使う時も……近いと言う事。


「もしその時が来たら……絶対呼んでね。絶対よ、学校側が拒否っても突撃するから。私が大学に行ってようが何してようが、絶対連絡入れなさい、分かったわね」


「大袈裟な……分かった分かった」


 美奈に念押しされていると、外から正宗の車のエンジン音が。むむ、来たな。


「じゃあ行ってくる。しばらく帰らんぞ」


「はいはい、気を付けてね」


 ちなみに父は仕事、母は奥の方で涙を堪えている。今までずっと家にいた一人息子……今は娘だが、そんな子供が寮生活をするとなると寂しいらしい。昨日までは気さくだったのに……。まあ、一週間に一回は絶対帰ってくるんだし……。皆大袈裟すぎる!





 ※





 そんなこんなで正宗に学校まで送ってもらい、まず朝一に向かう先は……生徒会の寮! 前に生徒会の面々に連れ込まれて入った事はあるが……これから俺はここに住むのか。まごう事無き男子禁制の地。やばい、そう思うと胃が痛くなってきた。

 なんだかんだ言って、俺はまだ男の心が……。


『まーたそんな事考えてる。梢さんは元々女性だったって何度言ったら分かるんです? 男の時の方が異常だったんですから、いいかげん慣れて下さい』


「か、簡単に言ってくれるぜ、ラスティナさんよ。高校に入るまで男子やってたんだぞ。思春期まっさかりの中学時代を過ごした直後に……っく……」


「何をブツブツ言ってるんだ?」


 ビクっと背筋が震える! だ、誰だ! と振り向いた先に居たのは、生徒会の会計! 忘れてる人も多いと思うが、金森かなもり 月夜つくよ先輩! なんとなく武士っぽい空気は相変わらずだ!


「か、金森先輩……っ! おはざっす!」


「運動部っぽい挨拶で結構だが、生徒会に入った以上は他の生徒の見本にならねばならぬ。なのでちゃんと発音するように。さんはい!」


 さんはいって……!


「お、おはようございますっ!」


「大変よろしい。流石、私が見込んだだけの事はある」


 見込まれてたのか、俺っ!


「というか大荷物だな。ほら、私が持ってやる」


「え、いや、大丈夫っすよ、俺だってこのくらい……」


 いいつつ、スーツケースを持つ手は既にプルプル震えている。あぁぁぁ! 美奈め! 何故、あのコロコロが着いたケースを用意しなかった! これ親父が使ってる手さげのお古かばん!


「いいから貸せ」


 なんとも男らしい雰囲気でケースを奪ってくれる金森先輩。軽々と肩に担ぐと……いや、肩に担ぐのか、凄いな。


「そっちのビニール袋は……あぁ、生理用品か」


「っぎゃー! 金森先輩! 言わないで……!」


「なんでだ。女同士だろ。何をそんなに恥ずかしがるんだ」


「だ、だって……お、俺はまだ男のこころも持ち合わせる不安定な存在っ! なにをどうすればいいのか……」


「……戸城さん。男のこころを持ち合わせてるなら、君は男子寮に住まうべきだ。違うか?」


 そ、そうだ! その手があった!


「じゃあそうします!」


「待て、最後まで聞け」


 ガシっと肩を捕まえられる俺。金森先輩はそのままギリギリと俺の肩を握り締めながら……って、握力凄いなこの人……! 俺の肩が砕けそうだ……! っていうか痛いんですが!


「私だって最初は戸惑ったさ。男の子が突然女の子になったから、寮で受け入れろと言われて「わかりました」なんて即答出来なかっただろう。でも今なら私は即答してみせるよ。それは君だからさ」


「は、はぁ……」


「前に、君と寮で過ごしてみて素直にいい子だと思ったんだ。それが私が君を受け入れる理由だ。文句があるならかかってこい。私に勝てたら男子寮に行かせてやる」


 クイクイっと、かかってこいやぁ! の覇気を展開する金森先輩。いや、勝てるわけねえ……バスケならともかく……。


「まあ、今更……君や女子達が何をどう言おうが、決まったことは覆らないよ。何せ……ここの寮を管理してる人、誰だと思う?」


「……? 誰なんすか?」


「クリス先生だ。逆らおう物ならどんなお仕置きが待っているか……。筋トレメニューなら、あえて逆らってみるのも手だが……ウズウズするな……」


 この人ヤバイ人や。

 そして寮を管理する人がクリス先生! 俺のクラス担任でもある教師だ。とても優しくていい先生に思えるが、なんだか逆らってはいけないと本能で感じてしまう。


『まあ、逆らえないでしょうね。クリス先生の経歴を軽く調べたんですが……ドロッドロですよ、この人』


 むむ、ラスティナ! 先生のプライバシーを覗き見たのか! っていうかドロドロって?


『三大企業のそれぞれの軍に所属していた過去があるんですよ。そのどれも一年と経たずにやめて、何故か教師になってます』


 三大企業? なんそれ。


『その内に授業で習いますよ。軽く説明すると日本で三本指に入る巨大企業です。それぞれが軍隊を持ってて、終末戦争後の日本を支えています』



「戸城さん? なんだ、誰か居るのか?」


「え? い、いえ! 独り言です……!」


「そうか。思春期だもんな、色々あるよな」


 なんか察された! うぅ、俺の寮生活が前途多難すぎる!




 ※




 なんと寮にはエレベーターが設置されており、生徒会専用フロアは……前にも来た筈なのに、滅茶苦茶豪華に見える。床が大理石なんですが。どこの一流ホテルですか!


「あの、金森先輩……前に俺が泊めてもらった寮とは……違う気がするんですが」


「あぁ、違うよ。あの時はここの風呂が壊れててね。一般寮だったんだ。でも今日からここが君の住まう第二の家だ。まあ気楽にしたまえ」


 出来るか! なんか高価そうな壺まで飾ってある! ここは本当に学校の寮なのか?!


「ちなみに……この生徒会フロアは妙にセキュリティが凝っててな。戸城さん、そこの壁の端末に自分のIDを読み込ませてくれ」


「お、おす」


 壁に掛けてある超薄型のテレビに手を翳し、体内のナノマシンを読み込ませる。すると電子音と共に、なにやら番号と……


『むむ、ナノマシンに情報が書き込まれました。どうやらナノマシン自体が部屋の鍵みたいですね』


 ハイテク! 


「その端末に出た数字が部屋番号なんだが、それ毎回変わるんだ。部屋の場所自体は変わらないんだけど、どうやら外部からの侵入を警戒してるらしくてな」


「外部って……ハッキングとかですか?」


「前にも実際、されかけた事があるそうだ。ここの監視カメラを覗き見れば女子達の日常が映ってるわけだからな。そんなわけでいちいち細かい所が暗号化されてるらしい」


 凄い凝ってるな。でも生徒会フロアだけなんだよな、そのセキュリティ。一般の方は……普通なんでしょう?


 なにやらラスティナも首を傾げている。何故生徒会フロアだけが、そんなに厳重なのか。まあ、最大派閥だしな、敵は外部だけとも限らないかもしれない。実際、新聞部は生徒会のスキャンダルを常に探し回って、引きずり下ろそうとしてるみたいだし……。


 そのまま金森先輩と一緒に俺の部屋の前まで荷物を運んでもらった。


「私が一緒では初めての部屋も楽しくないだろう? ここで退散するよ。朝練もあるしな」


「あ、金森先輩、ありがとうございました……っ」


 金森先輩は去り際「どういたしまして」からの


「ようこそ生徒会へ。君を全力で我々は歓迎するよ」




 ※




 部屋の中は中々にシンプル。ベッドに机に、何も入っていない本棚が二つずつ。やっぱり二人部屋か。そして俺の相部屋の相手は……猫屋敷 空という、あだ名が女王様という子。

 やばい、不安しかねえ……怖い子だったらどうしよう、泣いてしまう。


『まあまあ、そんな不安がっても始まりませんよ。とりあえずは……ベッドどっちにします!? 梢さん!』


 いや、それは相部屋の子が来てからじゃないと選べない奴!

 勝手に荷物広げて本棚に教科書入れようものなら……もうこっちの俺の! って言ってるようなもんだしな。ちなみに勉強机もベッドも本棚も、左右対称に分かれていた。中央には座布団と小さな机。これだけは二人の共有物か。とりあえずここで待っていよう。


「はぁ……」


 座布団に座り、机に肘をつくながら溜息一つ。

 本当に今日から始まるのだ、俺の寮生活が。密かに夢見ていた実家からの脱出。しかしここは女子寮。俺はもう女だ。しかし心は男なわけで……。


『梢さん、私は梢さんの、そう言う所も好きですよ』


「なんだ、いきなり告るな。恥ずかしいだろ」


『好きですが、でも相部屋の子の気持ちになってください。その子の目の前で、実は俺……心は男なんだ、なんて言ったら、どうなります? ストレスで疲れちゃいますよ』


 むむ、確かに……。


『と、いうわけで……一人称『俺』禁止令を発令します』


 い、いきなり!?


『そんないきなりでも無いですけどね! いいですか、梢さんは常々言ってる通り……元々女性なんです。男性の状態の方が異常だったんです。むりやりにでも慣れて下さい』


 ぐぅ……善処いたす……。


 すると部屋の扉が開いた。そして静かな足音も聞こえてくる。

 やばい! 相部屋の子が来たんか! 心の準備が……!



「ぁ……はじ、はじ……はじめまして……」


 俺の目の前に現れたのは、滅茶苦茶キョドってる女子。

 少し髪の色素が薄いのか、茶髪気味で肩くらいまでの髪。整った容姿で……つまり滅茶苦茶可愛い子。


「はじめまして……」


 お互いに挨拶して、その女子……猫屋敷 空は俺の目の前まで来ると


「……貴方……だ、男子って……ほんとう?」


 

 そんな事を言ってきた。


 

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俺、女子高生始めます Lika @Lika-strike

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