第16話 ナノマシンのお勉強の時間だ!

 4月14日(金) 午後3時半


 熱いバトルが終わった。日下部君にとりあえず手当をし、先に帰ってもらう。

 帰り際、日下部君は抄に対して頭を下げて謝っていく。


 それに対し抄は何も言わず、ただ片手をブラブラ振るだけだった。

 もう気にしてない、という事だろうか。

 あぁ、恥ずかしいんだな、コイツ……。


 そのまま抄と二人きりになり、抄の顔にも薬を塗ってやる。

 この薬にも少々のナノマシンが入っている。

 まあ、ラスティナ曰く多少直りが早くなる程度らしいが。


「姉さん……ちょっと話したい事があるんだ」


 ふむ、なんじゃ?

 抄の頬に親指を回すようにして薬を塗る。


 ぐしぐし……


「ぁ、ちょっと気持ちぃ……」


 ふむ、ここか? ここがええのんか?


「ぁっ、いいよ、姉さん……もっと……」


 ふふ、可愛い奴め! たんと塗り付けてやるわ!


『あの、早く話進めてもらっていいですか? ただでさえ前の話も九千字越えてんですから』


 うっ、ラスティナの言う事も最もだ……。無駄に文字数増やすのも何だしな……。


「話ってなんだ、抄」


 薬を仕舞いつつ、抄と向き合う。


「ん……実は、こっちに来る前に少し調べたんだ。家族の事……今……姉さん二人暮らしだよね? その……

 父さんか母さん……どっちかもう死んじゃったのかなって……」


 ん? 何を言う。

 父も母も健在だぞ。っていうか家は三人暮らしだ。


「え? いや、でも……」


 ラスティナも首を傾げながら、何やら資料を表示した。

 俺のナノマシンのデーターから住民票らしきものを。


『……確かに……梢さんのご家庭は父上と梢さんだけになってます。でもお母さんもご健在なんですよね?』


 う、うん。ちゃんと生きてるし……。


『そういえば……梢さん、前に聞いてきた粒子血栓塞栓症の事ですが……』


 あぁ、夢で見たような気がするって奴ね。


『いや、私も気になって少し調べたんですけど……梢さんの周りで粒子血栓塞栓症を発症された方は居ませんでした。まあ夢の話なんで……そこまで気にするのもどうかと思いますけど』


 ふむ。まあ今気にする事でも無いし。


「姉さん……FDWと会話してるの? コネクト申請していい?」


 ぁ、そうだった。ラスティナとの会話は他人には聞こえないか。

 いいぞよ、と抄とコネクト。

 ん? 抄のFDWはどこじゃ?


「後ろ後ろ」


 後ろ? と振り向いてみる。

 …………ん?


 そこに佇んでいたのは……。


『初めまして。私が抄と契約してるFDW、トラゴロウよ』


 トラ……? ……かなりデカイ。

 え、ぇ? ど、動物?!


『失礼ね。FDWの見た目なんて大した問題じゃないわ。聞いてない? この見た目は契約主の好みの問題なのよ』


 あの、この虎……口調はオネエっぽいけど……声めっちゃ渋い。

 ラスティナは当たり前のようにトラゴロウさんの背に乗ってるし……そのままモフモフしてる……ぁ、気持ちよさそう……。


『それで? お姉さんの家族構成に疑問があるのよね。抄』


「う、うん。でもお母さんも健在なら……」


 ラスティナはトラの背に乗りつつ、再び住民票を確認する。

 しかし何度確認しても登録されているのは俺と父親のみという事だった。

 なんで母親は……。


『まさか……ちょっと待って下さい、FDWも込みで検索かけます』


 ん? FDW込みって……いや、家には居ない筈だが……。


 しかしラスティナは顔を顰め、何やら考え込む。

 そのまま目の前の資料を閉じ、トラゴロウさんの頭に手を置いて、撫でまわしながらも考える。


『んー……あの、梢さん……私前に言いましたよね。知らない方が普通に幸せな生活を送れる事もあるって……』


 え? あぁ、言われたけど……どういう事ですかい。


『今がまさにその時です。気になるかもしれませんが、全て知らないフリをして生活する選択もあるって事ですよ』


 ちょ、ちょっとタンマ! そんな言い方されたら更に気になる!


『……これは……私の口からは言いにくい事なので……ご両親と、とりあえずお話されてみては如何でしょうか。その前に……少しいいですか? ナノマシンの基礎的な知識はどの程度ありますか?』


 え? ナノマシン?

 いや、まあ……病気を治したり、監視したり……ID登録用にしたり……。


『そうですね、ナノマシンにはかなりの種類がありますが、今梢さんの体の中にあるのは一種類のみです。つまり、最後に注入されたIDナノマシンのみと言う事になります。私もそのナノマシンを使って、梢さんと様々なコンタクトを取っているわけです』


 え? 一種類しか入ってないの? いや、でも……今まで色々入れてきたですわよ。


『はい、現在、様々な場面でナノマシンは注入されていると思います。しかし想像してみてください。色んな機能を持ったナノマシン。当然ながら体の中にどんどん数は増えていく一方です。自分の体の中に、凄く小さなオタマジャクシがウヨウヨ泳いでいるのを想像してみてください。数が増えすぎるとどうなりますか?』


 いや、どうなるって……数が増えすぎると……詰まる?


『正解です。なので、通常ナノマシンは新しい物が注入されると、古い物から必要なデーターや機能を引き継いで、溶けたり排泄物と一緒に出されたりします。ナノマシンのメーカーは沢山ありますが、その機能は全社で統一されているんです』


 ふむ、つまり……俺のIDナノマシンの中には結構色々な機能持ってるって事?


『はい、テストの監視用や一時的な娯楽のための機能は削除されますが。それでですね……梢さんの中に入っているナノマシンは多少変異しています。なにせ、原因は分かりませんが梢さんの体を女体化させた物ですからね。しかしIDナノマシンは元々そんな機能を持っていません。ならば考えられるのは一つ。前に残っていたナノマシンから機能を引き継いだ』


 にゃるほど。しかし……そんな機能を持ったナノマシンなんて当然俺は打ち込んだ記憶は無いし……。

 なんか不気味だな……。


『ですね。しかし今はそれは置いておいて……ナノマシンの基本的な動作の部分だけを踏まえて聞いてください。今説明した通り、古いナノマシンは新しい物にデーターや機能を引き継いで消え去ります。しかし稀に正常な動作が行われない場合があります。ナノマシンといえども機械ですからね。バグったり壊れたりしますから』


 ふむふむ、万能ではないって事だな。


『そうです。そうやって蓄積されたナノマシンの残骸が、主に血管に詰まる事があります。その症例が以前、梢さんに説明した粒子血栓塞栓症の一つです』


 ふむ、で?


『これも以前説明しましたが、現在、最も安全に治療するには外科手術しかありません。しかし現在の医師の中で外科手術を行えるのは……三割と言った所でしょうか。今はもっぱらナノマシンを使った手術ばかりですしね』


 なるほど……それで……結局ラスティナは何が言いたいんだ。


『あとは……ご両親の口から説明してもらえるでしょう。私が言えるのはここまでです』


 ……んー。なんかモヤモヤするんだが……。

 ラスティナはそれっきり口を噤む。

 何かを察したようにトラゴロウさんも。


 俺と抄は首を傾げるばかりだ。


 一体……俺の家族に何があったんだ。




 その後、抄に今日は家に来てほしいと頼んでみる。美奈にも連れて来いと言われたしな……。


「え、そんな急に言われても……外出届け通るかな……」


 むぅ、そうか。寮の外に出るには必要なのか……。まあ、今日がダメなら後日でも……。


「まあ、一応……ダメ元で頼んでみる……」


 抄は立ち上がり部屋を出ていく。

 ふむ、寮を管理してるお姉さんに頼みに行ったのか……。

 ぁ、そういえば花京院 雫と光は先に駅の喫茶店で待ってるんだった……連絡しとくか。


『梢さん、私がコールしますよ』


 返事をする前に光の携帯にコールするラスティナ。

 むむぅ、手際がいいな。


 その後、光が電話に出て、もう少し遅れると連絡。

 どうやらパフェを食べているみたいだ。ゆっくりと構わないとか言われた……。


 むぅ、俺も食べたかったな……こう見えて俺は甘い物が大好きだ!


『こう見えてって……どっからどう見ても甘い物好きに見えますよ。女の子に甘い物が嫌いな人なんて……居るかもしれないけど居ませんよ』


【注意:私の周りには居ない……と思います……】




 その後、十分ほど経った後に抄が戻って来た。

 むむ? 外出届け通ったのか?


「うん、実家に帰るって言ったら渋々……次からは最低一日前には出せって叱られた……」


 なにぃ! 誰じゃ! ワシの弟を叱ったのは!


「え、えっと、寮の管理人さん……」


 ですよね……。


『じゃあ身支度して行くわよ。といっても着替えと枕だけでいいわ』


 いや、むしろ枕いらんだろ。

 そんなマイ枕じゃないと寝れない男が何処に……。


「え、だ、ダメ?」


 枕を抱きかかえる抄。


 え? い、いいよ!


『あっさり手のひら返す辺りは抄にソックリね。一旦コネクト切るわよ。友達と合流するなら人数増えて作者の力量じゃ捌き切れないだろうし』


【注意:すんません……】



 時刻は四時過ぎ。ムム、結構抄の部屋で時間食ってたな。

 二時くらいには教室出たのに。


 学校から最寄りの駅へ。その中にある喫茶店に入り、花京院 雫と光を探す。

 むむ、居た居た……って……


「ぁ、おかえりーっていうのは違うかな……」


「遅かったわね、何してたん……って、馬海君、その顔どうしたの?」


 馬海の腫れた顔を見て驚く二人。

 しかし俺は二人が座っているテーブルを見て更に驚きを隠せなかった。


 パフェが入ってたであろうグラスが……五つ以上……。

 ちょ……どんだけ食ったん……


「心配ないわ、ちゃんと半分こしたし」


「うんうん、甘い物はどれだけでも入るしね」


 女子の胃袋って……本当に甘い物用とその他用があるのか!?

 やばい、体の基本構造が男と違うって本当だったんだ!


【注意:女性も男性も胃袋は一つです】


 俺達と合流して席を立つ二人。

 そのままお会計を済まし、四人で電車に乗り込む。


「この時間帯は空いてるねー。帰りの電車で座席に座れるって結構新鮮かも……」


 ふむ、俺は初めての学校からの帰宅だな。

 昨日は寮に泊まったし……。


「ところで梢。お家の人には私達が行くって連絡はしたのかしら」


 ぁっ、してねえ……

 ま、まあ大丈夫だろ。部屋数はあるし……。


「私達としては前もってしてほしんだけど……迷惑になるくらいならホテルにでも泊まるわ」


 いや、それはダメだ!

 家の周りマジでなんも無いぞ! 未だに田んぼがあるくらいだし!

 ホテルなんて確実に無い!


 うぅ、なんとなく二人の前でラスティナにコールしてもらうのは気が引けるな……この中でFDWと契約してるの私と抄だけだろうし……


 携帯を出して家に電話……。


『はい、戸城ですが』


 むむ、電話に出たのは母親。

 さて、女の友達連れてくと言ったらどういう反応をしてくれるのか。


「ぁ、母さん。俺だけど……」


『俺俺詐欺なんて今はもう絶滅してるわ。他を当たってちょうだい』


 いやマテ! 声で分かんだろ! 俺だよ! 俺俺!


『冗談よ。どうしたの? 今日も泊まってくるの?』


 ん? 美奈から聞いてないのか? 抄も連れて帰るって……まあいい。


「えっと、友達三人……今日家に連れて帰っても大丈夫? ちなみに女性二名、男性一名だけど」


 むむ、どうだ。ダメっていうか? それとも大喜びか?


『あら、早速お友達出来たのね。別にいいわよ。今日、美奈ちゃんがお寿司沢山買ってきてくれたから。ぁ、梢、それなら帰りに飲み物だけ買ってきなさい。あとでお金もあげるから』


 いや、ジュース代くらい自分で出すで。


『ダメよ。これから色々必要になるんだから。いつまでも美奈ちゃんに買わせるわけには行かないでしょ?』


 む、確かに……わかりました……。


 そのまま電話を切り、母親からOK貰った事を報告。

 女子二人は喜んでいるが……抄は浮かない顔をしている。


 そうだよな……うちの両親は何か重大な事を隠してる。


 得に母親……なんで……家の住民票にあんたの名前が無いんだ……?




 途中、乗り換える駅にある自動販売機でジュースを購入。

 そのまま再び電車を乗り換え、我が家の最寄り駅に到着。

 電車から降り、三人を案内する。


「うわっ、ホントにザ・田舎って感じね。未だに無人駅なんて……私初めて降りたかも」


 失礼な! 花京院 雫……この駅には昔からお世話になってるんだ。


「でも良い所だね。空気が違うっていうか……」


 うむ、分かってるな、光サン。

 昔から……そこの田や空き地で正宗と美奈、そして俺の三人で良く遊んだ。

 走り回ったり、カエル捕まえたり……。


「凄い遊び方ね……貴方、ほんとに現代人? 二十世紀から来たんじゃないわよね?」


 そんなわけなかろう……!


 しかし……なんか家に近づくにつれ足が重く感じる。


 ラスティナの言う通り……何も知らずに……何食わぬ顔で……普通に生活すればいいじゃないか、と思う自分が居る。


 本当の事を知った所で……どうするんだ。

 親に文句の一つでも言うか? なんで隠してたんだって……。


 いや、そんな馬鹿な……両親は俺が知ると不味いから隠してたんだ。

 それは……俺のためなんだ。


 でも……このまま何も知らずに……何も聞けずに……俺は両親の前で笑えるだろうか。


「梢……どうしたの? なんか震えてるけど……」


 光に指摘され、自分が初めて震えている事に気が付いた。

 何でもないと言いつつ、家の前に立つ。

 鍵のロックを外し、そっと玄関を開いた。


「おかえり、梢」


 笑顔で迎えてくれる母親。


 だが……後ろに立つ抄の顔を見るなり……母の顔は一変した。


 まるで……幽霊か何かを見るかのように。


「あ、あなた……まさか……」


 誰でもビックリする……俺が男の頃と全く同じ顔をしているんだ。

 この反応を見る限り、美奈は何も話していないんだ。

 それは言い訳の相談を全くしていないという事だ。


 美奈は全て真実を話す気でいる。

 あれほど自分は求めていたのに。

 ここに来て後悔する自分も居る。


「あなた……」


 ゴクっと母親が息を飲むのが分かる。

 相当動揺しているんだろう。


 しかし、途端に笑顔に戻る母親。

 そのままスリッパを人数分出す。


「どうぞ、汚い家だけど……ゆっくりしていってね」


 光と花京院 雫は顔を見合わせつつ、笑顔で対応する母親に合わせる。


「お邪魔します、流石……戸城さんのお母様ですわ。お綺麗ですね」


 花京院 雫……そんなお世辞……


「あら、本心よ。ね、光」


「え? あ、うん」


 スリッパを履き、そのままリビングへと案内する。

 そこには大量の寿司。


 そして……なぜか父親がグルグル巻きにされて美奈のソファーにされていた。


「ぁ、おかえりー」


 いや、あの、美奈さん? なにそのSMプレイ。


「ん? いやぁ、叔父さんがどうしてもっていうから……ねー?」


 必死にフルフルと頭を振る父親。

 な、なにがあったんだ。


「ん? あれ、君達……」


 花京院 雫と光の姿を見て、唖然とする美奈。

 まさか女友達まで連れて来るとは思ってなかったようだ。


「ぁ、ごめんごめん、いいよ、座って座って」


 そのまま……親父の顔に上に座ってスペースを開ける美奈……っておい!


「んぅー! んぅぅんぅぅ!」【訳:美奈ちゃん! 苦しい!】


 親父すごい、もがいてる! ちょ、やめてあげて!


「別にいいわよ、女子大生のお尻で死ねるなら本望でしょ。ぁ、梢すわる? フガフガして結構気持ちいよ」


 お前どこの女王様だ! 俺の親父を何だと思ってる!


「んー……まあ、その事についても後で話すわ。ほら、君達も座って。ぁ、その前にお風呂はいる?」


 風呂……むぅ、確かに先に入るか。

 じゃあ光と花京院 雫先にドウゾ?


「何言ってるの。三人で一緒に入るわよ。馬海君も早く入りたいだろうし」


 その時、親父がビクっと体を痙攣させる……ってー! 美奈! 何時まで親父の顔に座ってんだ!


「ん、んー! んんんぅ!」【訳:馬海?!】


「何よ、叔父さん。いくら私のお尻が気持ちいからって……変態」


 いや、絶対違う! 親父が言いたい事と美奈が思ってる事絶対違うから!


 しかし花京院 雫も光もそのまま普通に流しつつ、脱衣場に……。

 着替えを鞄から出す花京院 雫。


「梢、私は家から着替えもってきたけど……光の分は無いの。何か貸してあげて?」


 むむ、そうか。そういえば花京院 雫の家は高校の近くだったな。


「そう。だから速攻で取ってきたの。光の分も取って来てあげようと思ったんだけどね……光は梢のが良いでしょ?」


「え? ぁ、ぅ、ぅん……」


 そうなのか? しかし俺と光では身長差が結構あるし……。


【注意:梢 身長153cm  花京院 雫 167cm  光 166cm】


 ってー! こんなに身長差あったの!? もっと早くこの設定晒せや!

 男の頃は俺、178cmあったんだぞ! それでもバスケ部の中で小さい方だったけど!


「そうなの? バスケやバレーしてたら背が伸びるっていうのは……本当だったのね」


【注意:バレーやバスケ部に入れば身長が伸びるとは限りません】



 そのまま三人で脱衣場に……うっ、流石に狭いな……。


「順番に脱いで浴室に移動しましょう。言い出しっぺから脱ぐわ」


 って、花京院 雫! そんな堂々と……お、おれは元男……っ


「まだそんな事言ってるの? 今は女でしょ。ほら、ちょっと手かしなさい」


 え、な、なんすか、いきなり……って、胸に手押し付けんな! ちょ……ブラの下に手入れさせんな!


「貴方にも同じもの付いてるのよ。梢、貴方はもう女の子なの。気持ちは分かるけど、そろそろ自覚しなさい。いつまでも恥ずかしがってると……この先苦労するわよ」


 いや、言ってる事は分かるんだけども……っ ちょ……いやっ、や、やわらか……


「そうね、たしか……生徒会に体中くまなく洗われたって言ってたわね。光、やるわよ」


 な、なにをっすか……嫌な予感しかしない……。


「いいからっ 女三人で裸の付き合いよ! 余すとこなく洗ってさしあげるわ!」


 何を張りきっとるんだね、きみは……。

 うぅ、そのまま花京院 雫は浴室に……少しスペースが開いた脱衣場で、全裸になる俺と光。


 ん? なんか……光の体……凄いな。

 完全な理想体型っていうか……無駄が無いっていうか……単純に綺麗……。


「え? え? な、なんでそんな事まじまじと……は、恥ずかしいよ……」


 ぁ、いや……ゴメン……と、その時脱衣所のドアが開く。


 ん?


「…………」


 一瞬誰かと思ったら……なんだ、正宗か。

 どうした、固まって。


 お前も風呂はいるん……


「ひ、ひあぁーっ!」


 声を挙げながら浴室に逃げ込む光。

 そしてその声を聞きつけて駆けつける美奈。


 俺の目の前で正宗が釣り天井固めを極められる。


「お前はっ! いい加減にしろゴルァ!」


「だ、だって! 入ってるって知らなかったんだぁ! いだい! 美奈いだい!」


 ……正宗……死ぬなよ……。


 そのまま静かに脱衣場の扉を閉めた。

 正宗の無事を祈りながら。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る