俺、女子高生始めます

Lika

第1話 人生最大の過ち

 皆様にはこんな体験は無いだろうか。

 どっかの店の会員登録、クレジットカードを作るとき等々……

 必ずと言っていいほど○を付ける蘭がある。


 男 or 女


 そう、これだ。

 誰でも一度は間違えて異性の方に○を打ってしまった……なんて事ある筈。


 え? 無い?


 ありますよね! 一回くらい!

 誰でもあります! 


 ……ある……よね?





 西暦2180年 4月1日


 私、戸城 こずえは今年から高校生。

 梢という名前だが、歴とした男である。

 良く病院などで女と間違えられるが、これはこれで便利な時がある。

 なにせ男としては珍しい名前だ。なのですぐに覚えられる。


「梢ー、用意出来たかー?」


 隣の家に住む幼馴染から声が掛かった。

 今年で二十歳になる幼馴染は、車の免許を持っている。

 その為、高校まで送ってもらえる事になっていた。


「今いくー」


 返事をしながら今一度、姿見で制服をチェックする。

 ブレザーの制服。ネクタイを今一度締め直しつつ、玄関へと向かう。


「お、カッコイイじゃん。いい男になったなぁ」


 幼馴染の斉藤 正宗。お前の名前には負ける。

 学校指定の靴を履き、玄関から出ると父親と母親が何やらカメラを用意していた。


「梢、母さんと正宗君と並べー」


 玄関先で並ぶ三人。

 母親は俺の肩を抱いて嬉しそうにしていた。

 なにせ今の高校に入る事が出来たのは奇跡に近い。

 合格発表の後、親戚総出で祝ったくらいだ。


「はい、チーズ」


 そのままシャッターを下ろす父親。

 正宗が今度は父と交代し、カメラを持つ。


「いくどー」


 そのまま再び撮影。

 一人息子が高校に入学する。

 ただそれだけで父親は十万以上するカメラを購入した。


「じゃあ、行ってきます」


 父と母に手を振りながら正宗のセダンに乗りこむ。


「いってらっしゃいー、女の子の友達作れよー」


 父の言葉に吹き出しつつ、今一度車の中から手を振った。



 自宅から高校まで車で三十分程掛かる。

 明日からは電車で行かなければならない。

 本当ならば今日も電車で行くつもりだったのだが、入学式初日から遅刻したらシャレにならないと、正宗が送ってやると申し出てくれた。

 ちなみに正宗は高校入学式で遅刻している。

 その為か、説得力がハンパなかった。


「それにしても……お前がなぁ……」


「なんだよ……文句あるかよ」


 恐らく正宗は意外なのだろう。

 俺が今から行く高校に合格できた事が。

 なにせ昔から一緒にアホな事しかやってこなかった。

 ロクに勉強もせず、ひたすら遊んで寝てを繰り返してきた仲なのだ。


「勉強ついていけるんか? 試験とか完全に一夜漬けだろ」


「そんな事ない。学校の推薦も無いと試験すら受けれないんだ。中学三年はかなり頑張った」


 下から数えた方が早い成績を、学年十位以内にまで上げたのだ。

 我ながら、やれば出来るじゃないかと思った。


「カンニングとかしてないよな……」


「してねえよ……」


 今の世の中カンニングなど不可能に近い。

 何せ生徒一人一人に監視用のナノマシンが注射されるからだ。

 先生の目を盗んでメモなど見たりすれば一発退場だ。


「お、可愛い制服の子が……って、あれ……お前が今から行く高校の子か?」


「ん? あぁ、えらい走ってるな。つーか……間に合うのか? まだ数キロあるだろ」


 信号待ちしている俺達を追い抜かして走りさる少女。

 時間はまだ余裕があるが、走って間に合うような距離では無い。


「可愛い子だな。あの様子だと新入生か……」


「おい、まさか……」


 信号が青になると同時に発信する正宗。

 そのまま女子生徒を追い抜かし、左に寄せてハザードを焚く。


「呼び止めろ、チャンスだぞ」


「ま、まじかよ……」


 こうなったら正宗はテコでも動かない。

 というか俺に拒否権は無い。今現在正宗の車なのだ。

 正宗は無類の女好きで、女に優しくない男はカスだと普段から言い放っていた。

 つまり、ここで女子生徒を見捨てる選択をすれば……俺もここから走って行くハメになる。


 扉を開け、女子生徒が走ってくるのを見計らって声をかけた。


「おい、あんた……間に合わないだろ、乗ってけ…………」


 って、無視しやがった!

 マジか! 結構傷つく!


「追いかけろ! 先で待ってるから!」


「マジかよ……」


 車のドアを閉めつつ、俺も走り女子生徒を追いかける。

 うお、結構早いな……しかしバスケ部舐めんな! と何気に全力疾走。


「はぁ……はぁっ……ちょ、待て……待てって!」


 声を掛けるが女子生徒は止まらない。

 なんなんだ、俺の全力疾走のスピードを維持してやがる!

 仕方ない、セクハラだと言われない事を祈りつつ、肩を掴んで無理やり止めた。


「ん? え? な、なんですか?」


 ようやく俺に気づいたのか、振り向く女子生徒。

 今にも走り去ってしまいそうな雰囲気で足踏みしている。


「はぁ……あの……車……のって……いきませんか……」


 息が乱れ、つい敬語になってしまう。

 それに対して女子生徒は余裕の表情で首を傾げつつ


「え? なんて?」


 お前! 人の話聞けよ!


「だから……ここからじゃ……間に合わないから……車……乗ってけ……」


 息を整えながら再び申し出る。

 女子生徒は足踏みを止め、俺の来ている制服を観察。

 ようやく同じ高校に行く生徒だと気づいたのか、納得するように頷いた。


 だが


「あぁ、うん。親切にありがとー。でも私走るの好きだから大丈夫ー。じゃあね」


 そのまま再び走り去る女子生徒。


 って、うおい! 行くんかい!


 く、くそう……全力疾走して損した。


 息を乱しながら、先で待っていた正宗の車に乗りこもうとする。

 だが様子がおかしい。


「……? どうした、正宗……」


「いや、わりぃ……ガス欠……」


 数秒思考が停止する。

 何故に、この入学式のタイミングでガス欠など起こるのだ。

 というか事前に確認しとけや!


「あー、すまん、梢……これでジュース買え! な?」


 言いながら千円札を出してくる正宗。


「覚えてろよ……」


 千円札をしっかり受け取りながら、カバンを持ち再び全力疾走する俺。

 女子生徒は既に豆粒ほどしか見えない。

 奴に追いつけば学校にも間に合う。たぶん。


 最悪遅刻しても一人よりは二人の方がマシだ。





 ※





 あれから……どれくらい走っただろうか。

 頭がポーっとする。

 これがランナーズハイか。


「あれ? 結局君も走ってるんだ?」


「う、うるさい……話しかけんな……」


 ゼエゼエ言いながら走る。

 いつのまにか女子生徒にも追いついていた。

 我ながら思う。やれば出来ると。


「いやー、助かるよー、さっきから人の視線が痛くてさー。二人ならいくらか気分も楽だしー」


「そ、そうかよ……」


 そりゃあ制服姿で歩道を疾走する女子高生を見たら、誰でも何事かと思うだろう。

 だが俺はそんな事を気にしている暇など無い。

 今足と止めたらもう一歩も動けない自信がある。


「お、見えてきた。ほら、あと少しだよ! ガンバ!」


「あ、あざーす……」


 女子生徒の応援を受けてラストスパート。

 高校の正門には二人の教師が立っていた。

 他に生徒は見えない。

 やばい、遅刻したかも。


 正門に辿りつき、フラフラと息を乱しながら教師の前へと歩み寄った。


「す、すんません……遅刻……しました……」


 教師二人は何事かと俺をジロジロ見てくる。

 それに対して女子生徒は余裕の表情で


「おはようございまーす、今日からよろしくお願いしますー」


 などと言っていた。


「あ、あぁ、よろしく……。というか急ぎなさい、もう入学式始まってるよ」


 あぁ、やっぱり遅刻か!

 ちくしょう……かなり頑張ったのに……


「大丈夫? おんぶしよっか?」


 女子生徒から悪魔の囁きが……

 そんな事されたら俺の高校三年間が暗黒面ダークサイドに落ちてしまう。


「け、結構……」


 女子生徒からの申し出を丁寧に断りつつ、体育館と思わしき場所へと向かう。

 もうダメだ、心臓が死にそう。


 体育館の入り口に受付があり、自分の名前と年齢、住所から電話番号に至るまで確認する。

 最後に男か女の確認。

 決まってる、俺は男だ。


 ってー! 手が震えて女の方に○が!

 やばい、訂正しないと……


「はーい、じゃあナノマシン注射するからねー。学校指定のID用だから……って、君……大丈夫?」


 必死に訂正しようとするも手が震えてボールペンすら落としてしまう。

 ああもう、大丈夫だろ。こんなもん嫌でも俺は男って分かるだろうし。


「えーっと……女の子……っと」


 おいちょっと待て!


「あ、はいー、女の子です」


 ぁ、そっちか……びびった……。


「はい、君もー。ちくっとするよー」


 ん? あれ? なんか嫌な予感が……いや、大丈夫だよな。

 そのまま腕にナノマシンの注射をされ、体育館の扉へと向かう。


「じゃあ式もう始まってるから。ソーっと入ってね」


 受付が扉を少しだけ開き、俺と女子生徒はソーっと入る。

 すでに新入生が整列していた。その最後尾に立つ俺と女子生徒。

 壇上の上では、校長と思わしき人物が挨拶をしていた。


『えー、であるからしてー、君達も高校生として自覚を持った……』


 むむぅ、まだ続きそうだな。いかん、全力疾走したから足がプルプルする。

 やばい、動悸もおかしい。

 目の前もなんかユラユラしてる。


「ちょっと、大丈夫……?」


 小声で俺に話しかけてくる女子生徒。

 いや、待て……今俺に話しかけんな。

 なんか……すごい……気持ち悪い……。


 そのまま目の前の光景が反転した。


「え? ぁ、ちょ……っ、す、すみません! あの、あのー!」


 女子生徒が大声で助けを求める声がする。

 なんだ、どうしたんだ。


 あれ……なんか……世界が横向きに……あぁ、っていうか俺が倒れてんのか……。



 ☆数時間後☆


 

 秒針の音が聞こえる。

 あ、もう朝か……起きないと……。

 って、違う、入学式だ。

 俺は倒れたんだ。やばい、全力疾走で学校に来たら倒れましたなんて……情けないにも程がある。

 しかも一緒に、あの女子生徒と共に走ってたのだ。あっちは余裕の表情だったのに……。


「……元気?」


 薄く目を開けると、目の前には知らない女性が一人。

 白衣らしき襟元が見える。

 あれか、保健室の天使か。


「あぁ、はい……すみませ……」


 ん? あれ? なんだ、今の声……

 妙に高い……。


「あー……アッー……」


 試しに声を出してみる。やはり高い。

 もしかして変なガスでも吸ったんだろうか。ヘリウムなんちゃらみたいな……。

 喉を抑えながら、とりあえず起き上がる。


 ん? なんか……頭が重い……胸も重い……。


「あー……えっと……落ち着いてね。立てる?」


 ベットから足を降ろし、立ち上がる。

 足のふらつきも治っている。だが違和感がハンパ無い。

 なんだ? 妙に肌がくすぐったいというか……


「そこに……姿見あるから。ゆっくり覗いて。ゆっくりね」


 ゆっくり覗く必要があるのか。

 意味が分からんが言う通りに……って


「は? え?」


 開いた口が塞がらない。

 姿見に写っているのは、どこからどう見ても女子。


「…………」


 もしかしてドッキリなのでは、と鏡の前でピースしたり手を振ってみたりしてみる。

 まったく同じ動作をする鏡の中の少女。


 いやいやいやいやいやい! 違う! あれだ、この鏡……高性能なモニターなんだ!

 どこかにカメラが……それで俺の姿を一瞬で別人に編集して……。


「あー、なんとなく考えてる事わかるけども……それただの鏡だから……」


 な、なにぃ! いや、でも……


「ごめんなさい……うちのアホタレが……君に間違えて女性用のIDナノマシン打ち込んじゃって……」


 え、え?!

 ど、どゆこと?!


「まだ実感わかないみたいだから……ちょっとごめんね?」


 と言いつつ人のズボンを下げだす保健室の天使。


 ってギャー! いきなり何すんねん! この痴女……って、無い……。

 男に有る筈のアレが……無い……


「OK?」


「NO……」


 思わず英語で受け答えする。

 ちょっと待て、意味が分からん。

 なんで……こんな……ことに……


「あぁ! ちょっと!」


 再び倒れる俺。

 眩暈が止まらない。

 意味が分からない。


 何がどうなってるんだ……。


 ※


 あれから一週間。

 保健室で倒れた後、救急車で病院に搬送された。

 それから様々な精密検査を受け、分かった事がある。

 俺は完全に女になっていた。

 びっくりするほど女だ。

 なにせ子宮すらある。


「まじかー」


 ぶっちゃけ、女体化とか実はそこまで珍しくない。

 西暦2180年現在、性転換手術はかなり進歩している。

 しかし俺はかなり特殊な例らしく、女性用のナノマシンを注入しただけでここまで完全に変化するのは、病院の先生いわく……ありえないらしい。

 恐らくは元々そういう体質だったのか、その前に全力疾走したのが原因だったのか……。


 携帯を開きつつ日付を確認。


 4月8日……

 入学式からちょうど一週間か……。当たり前だけどもう授業始まってるよな。

 あれから両親、正宗も見舞いに来てくれた。そして全員開いた口が塞がらなかった。

 とくに正宗は自分のせいだと言い始め、壁に頭を叩きつけて看護師に注意された。父親は父親で俺を携帯で写し始めて母親に殴られた。


 まあ、それはさておき……


 ここ数日精密検査づくしだ。外にも出れず、トイレに行くだけでも看護師の許可が居るのだ。

 トイレといえば……女って大変だったんだな……男なんて拭かないもんな……。


「戸城さんー。検診の時間ですー」


 看護師さんが入ってくる。現在は朝の八時。

 朝食の前に検診があるのだ。


「はい、熱測ってねー。なんか気分が悪いとか無い?」


「大丈夫ッス……」


 声を出すたびに未だに違和感が拭えない。

 体温計を脇に刺し……刺し……って胸ジャマ! 


「あはは、ほら、男の子の頃とは違うんだから……」


 看護師さんの冷たい手が……胸に……

 うぅ、なんか微妙な気分だ……そのまま胸を寄せつつ脇に体温計を入れる看護師さん。


「もうすぐ退院できるからね。ぁ、何か食べたい物ある?」


 ふむぅ、食べたい物か……

 何か辛い物が食べたい……なにせ病院の食事は薄味ばかりだし……。


 考えていると、体温計から電子音。

 取り出し看護師さんに渡す。


「うん、熱も無いみたいだし……じゃあ安静にね。おしっこ大丈夫?」


「はぃ……」


 そのまま、じゃあねーと満面の笑みで出ていく看護師さん。

 きっと面白いんだろうな、俺……。


 あぁぁぁー! このまま男に戻れなかったらどうしよう……。

 いや、戻れるよな?

 まだ男の機能一度も使った事ないし……


 まあいい、寝よう……そうしよう。


 そのまま現実逃避しつつ……いつの間にか寝てしまった




 ☆六時間後☆


 誰かが部屋の中に入って来た気配で目が覚める。

 ん……今何時だ。看護師さんか……?


「あれ、寝てる……? 出直そうかな……」


 この声は……


 ガバっと起き上がって顔を確認。

 やっぱりコイツか。あの時走って一緒に高校に行った……


「ぁ、起こしちゃった? ごめんネ?」


 いいつつ椅子に座る女子。そういえば名前すら知らないな。


「はい、お見舞い」


 何やら駄菓子類が入った紙袋を渡してくる。

 そういえば……今何時だ! 朝飯食ってねえ!


 うっ、午後二時。結構寝てたな……。


「大丈夫?」


 顔を近づけてくる女子。うっ、近い……近い!


「何恥ずかしがってんの……って、男の子だっけ……ごめんごめん」


 うぅ、看護師さんに続いて、こいつにも遊ばれてる気がする……。


「びっくりしたよー、君が倒れてから……いきなり髪が長くなるわ、体が変わってくるわで……」


 そんな速攻で変化したのか。パネェ。


「ん……ちょっといい?」


 俺の胸に手を伸ばす女子。

 そのまま揉みこんでくる。


「ひょぁっ! な、なにしますのん!」


「え? ぁ、おっきいなーっと思って……」


 お、おっきい? あぁ、胸か……何カップあるんだろ。

 俺はFカップが好きだ。


「完全に女の子なんだねー……そういえば、いつ退院できるの?」


 いつ……具体的な日付けは聞いてないな。

 看護師さんは、もうすぐと言っていたが……。


「今ね、クラスでも君の話題で持ちきりだよ。学校に来たらきっとアイドルだね……」


 アイドルって……


「だって、こんなに可愛いんだし。すでにファンクラブとかも出来てるかも……」


 何をそんな……呑気な……


「どうする? 男子にコクられたら……あはは、当然そんなの……」


「うるせえんだよ! お前に何が分かんだよ! 俺で遊んでんじゃねえよ!」


 ぁ、やばい、キレた。

 ダメだ、別にこいつが悪いわけじゃ……


「お前らは楽しいだろうけど、俺は最悪なんだよ! 見舞いなんて迷惑なだけだ! 出てけ!」


 いや、違う。

 凄い有り難い。

 あぁ、ダメだ。俺バカだ。


「出てけ……出てけ……っ」


 あれ……俺泣いてるのか?

 涙が止まらぬ……。

 女の前で泣くとか……


「ごめんなさい……戸城君……」


 そのまま抱き寄せられる。

 ほぁ?! な、なんか柔らかい物が……顔に……


「ごめんね……戸城君が……不安だって……分かってた筈なのに……」


 え、いや、あの……


「本当にごめん……私で良かったら……力になるから……」


 あの、それより……


「胸……あたってる……」


 俺がそういうと、バっと離れて何事も無かったかのように振る舞う女子。

 ぁ、こいつも泣いてる。


「すまん……折角見舞いに来てくれたのに……」


 頭を下げて謝る。

 そうだ、クラスの中で唯一こいつだけが見舞いに来てくれたんだ。

 そんな奴に……迷惑だの出てけだの……最悪だ。


「い、いいよ、私も配慮足らなかったし……ぁ、お菓子食べる? って、食べていいの?」


 コクン、と頷きながら紙袋に入った菓子をベットの上にブチまけた。

 ふむぅ、色々買ってきてるな。

 ぁ、う○い棒食いてえ……。


 そのまま駄菓子を食いつつ、学校の様子などを聞いた。

 今は部活動を選んでるだの、面白い先生がいるだの、早速楽しい友達が出来ただの……


「今度紹介するね。その子も今日来たがってたんだけど……いきなり大勢で押しかけるのも……どうかと思って」


 それは素直にありがたいッス。


「ぁ、それでさ、戸城君って下の名前……なんて読むの? アレ」


「なんてって……そのままだけど」


 ん? と数秒考える女子生徒。

 っていうか俺もお前の名前知らんのだが。


「え、こずえでいいの? でも……」


「女の名前って言いたいんだろ? いや、今のは嫌味じゃないぞ?」


 弁解しつつ、何故にこの名前を両親が付けたのかを説明する。

 説明も何も、寸前まで女の子が生まれると医師から言われてたらしい。

 しかし生まれてみたら男の子だったってオチだ。


「え、考えなおそうとか思わなかったのかな……」


 思わなかったんだろうな。

 父親は結構大雑把な性格してるし。


「でも……そっか、ぁ、そういえば……私の名前……しってったっけ……」


 知らぬ。

 さっきからそれを聞きたかったのだが。


「あはは、ごめんごめん、最初に言っとくべきだったね……。私は花瀬 光。ヒカリちゃんでもヒカリたんでも好きに呼んでね」






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