どこかの誰かの話

三津谷 葵

ポケモン勝負と私の話

 来てくれた方こんにちは。そして申し訳ない。

 おそらくここに書かれる話はこの回も、そしてこれからも、とても小説と呼ばれるものではないと思う。個人の随筆といえば聞こえはいいが、昔の思い出話だ。

 高校の頃、私にはそこそこ大変なことがあった。その時の友人に、これは結構な珍事だから将来小説にでもすると、案外人に面白がられるかもよなんて言われた。

 この日常の雑談でしかない会話を、私は後生大事に抱え込んで、記憶を反芻して、一人しんどくなってしまった。それを吐き出そうという話だ。

 今回はしかもその珍事に関する話ではない。ただ、その時にいた友達とポケモン勝負の話だ。




 そろそろポケモンが出る。もう明日だ。というより今夜0時からだ。予めダウンロードして、ポケモン秘密クラブに入って動画を見ながら、ワクワクして待っている。

 私に限らない。私の世代はポケモン直撃世代だ。幼稚園の頃からポケモンが始まり、皆ポケモンとともに大人になった。twitterでは友人たちが、予めダウンロードした?なんて話している。

 それでも、私は友人とポケモン勝負をしたことが、実は本当に一度しかない。今日はそれに纏わる話だ。



 初代ポケモンが出たのは私が幼稚園の時だった。

 父ハマって全バージョン買ってきて、私もやった。幼稚園児の私は暗い場所が怖くて、シオンシティやら洞窟やら森に入ると怖いって言って父にやってもらっていたのを覚えている。


 小学校に上がってからもポケモンが好きで、ポケモンの自由帳を使っていて、休み時間はよく模写をしていた。友人達に当時はポケモン博士なんて言われていた。

 学校が私立の遠い学校だったから、放課後は皆遠い自宅にすぐ帰ってしまい、皆でポケモンをやったことはない。それでも、絵を書いたりして盛り上がった。私も大好きだと言っていた。


 中学年ぐらいからは事情が変わる。

 私の母は所謂教育ママで、私は幼稚園時代から高校まで大体週4.5で習い事をしていた。テレビ、漫画、ゲームなどは子供に悪影響、本も勉学の妨げになるなら禁止という考えだったから、低学年まではともかく、中学年になってからはそういった娯楽が家に来ることはなくなった。

 私はほとんど塾で家にいなかったから、テレビを見た記憶がほとんどない。親戚の家に行ったときに、たまに見れる程度だった。


 その頃から、自由帳を買っても知らないポケモンが増えた。ルビー、サファイアが発売されたのだと思う。私は上記の有様だったから、存在すら知らなかった。

 ある時、学友に葵は言うてポケモン詳しくないよなって言われた。たまに見れるアニメで知らないポケモンが出ていることは知っていたから、最近の知らないんだなんて答えて、それ以来ポケモンの話をしなくなっていった。


 それでも好きだったんだと思う。外でポケモンの話をしなくなっても、家にあるポケモンを何周もした。幼い頃は一体しか育てなかった。全てにニドキングを出して、ニドキングは最強でかっこいいって言って、3周ぐらい殿堂入りした。一度なぜかラッタが最強になった。銀でも同じことをした。オーダイルが最強だった。

 銀でレッドのとこまで行き、苦戦した。他のメンバーを犠牲にしながらオーダイルと元気の塊で辛くも勝って、レッドさんに憧れた。六体もいてみんな強かったから。その頃から平等に育てるようになった。年齢による知能の問題もあっただろうけど。

 小学校の間、年に二回ぐらい。だいたい長期休みの講習がなくて家に誰もいないそんな日、ポケモンをやっていた。殿堂入りまで何度も繰り返していた。ゲームが下手で、星のカービィもクリアできなかった私でもポケモンはできた。


 中学生になり、友達ができた。休日に遊んだ時、友人(以降アリサとしよう)は二画面のゲーム機を持っていた。存在ごと知らなくて、何それなんて言った。ポケモンだと言われて衝撃を受けた。科学の力ってスゲー。立体的な街や人。ポケモン。

 びっくりして、ゲーム機が欲しくなった。全く使われずにいたお年玉で、自分でゲーム機を買った。皆持っていて、対戦しようなんて話した。人とやるポケモンが初めてで、とてもワクワクした。


 友人5人、トイザらスで殿堂入りパーティて総当たりをした。

 最後一組が戦っているのをアリサと待っていた。対戦しようって私が言って、彼女はまぁって感じで了承した。50レベ以下にしようと言われて、合意。丁度殿堂入りと別に育てていたパーティが45レベぐらいだったのでそのパーティで挑んだ。育て途中だがそこそこに可愛がっていたパーティだ。


 アリサの最初のポケモンはミュウツーだった。5たてされた。覚えている。アリサは暇そうにしていた。みんな散っていった。みんなで少しずつ削って、リーフィアがなんとか倒してくれて、本気でリーフィアを褒めた。彼女の次のポケモンはジラーチ。諦めた。試合中、アリサは心の底からつまらなそうだった。


 試合が終わって、パーティを見せてもらった。全部、初代から、金銀から、連れてきた伝説のポケモンだと言っていた。私は本当にポケモンが好きだから、全部やって、みんな捕まえて、ずっと持ってきているのだと。ゲーム機が違っても連れてこれるということすら、ポケモン交換すらしたことがなかった私は知らなかった。


 その程度の好きだろと言われた気がした。にわかのくせにと。新しいポケモンの存在すら知らなかったのだから、しょうがないとは思う。そして私は何より、皆での総当たりの時は普通に試合をしてくれたのに、二人になったらつまらなそうに試合をされたことがショックだった。



 アリサは、私が気に入らなかったのだ。ゲーム機すら知らなくて、ただ友人がやってたから飛びついて、心底好きだなんていう人間が。流されてやっただけなんだろと。

 やっていた初代と金銀だって、ポケモン全部なんて集めたこともなくて、殿堂入りまでしかやっていない。そんなにわかがポケモンが大好きなんてよく言えたもんだと。そう思ったんだと思う。


 アリサは結局、中学から高校まで公式として友達で、そして彼女はずっと私が嫌いだった。その事を初めて強く感じたのがこの時だった。私はこの後もポケモンが出るとアリサ達と遊んだが、あれ以来ポケモン勝負をした記憶はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どこかの誰かの話 三津谷 葵 @aoitsuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る