君のいない世界が色づくことを願って

かくたに

第1話 君のいない世界で僕は

慶人のこと知ってる?

え?なに?知らない?なにかあったの?

実はさ…死んだんだ。

…は?

この間、癌で。

そう…なんだ……。

で、隼人は葬式いくよな?

ああ…もちろん、行くよ。

了解、じゃあまた今度会おう。

おう、ありがとな。


こんな会話をしたのはいつだっただろうか。バイト先で聞いたその話はどことなく遠い世界の話のような気がして、頭は理解してなくても心は反応したみたいだ。頬をつたう涙がやけに熱くて、心地よくて。でもたぶんそこで俺の心は死んだ。

そして見える景色全ての色が消えた。モノクロの世界に写るのは後悔と罪。ただそれだけだった。


一日目

バイトをなんとか終えた。塾の講師をやっているのだが気づいたら涙が出そうだった。それでも生徒の前で授業ができてしまった。俺はこの程度なのか。

家に着くと立てなくなった。

それでも這って前に進んだ。

冷蔵庫には何が入ってたっけ?

冷蔵庫を開ける。ビールがある。プルタブをあけて飲む。苦いことに驚いた。

味なんてしないと思っていた。自分の体はどうやらまだ正常らしい。

1本、2本、3本。足りない。ほかに何かあっただろうか。そういえば、先日友達と宅飲みをしたっけ?残りがあったはずだ。探してみると飲みかけのウイスキーがあった。正直好きではないが飲めればなんでもいい。グラスに入れて呷る。意識が暗転した。


慶人がいる。みんなと一緒に笑っている。恰好を見てみると制服を着ている。どうやら高校の時のようだ。慶人とは小中高を一緒だが高校の時の印象が一番深い。小中学生の頃は学区が違ったため、登下校をともにすることがなく、クラスも違ったため話す機会があまりなかったからだ。しかし、なんの偶然か同じ高校に行くことになりそれから今までよりずっと話すようになった。

なんでこの高校を選んでのか。

なんの部活に入ろうか。

将来なにがしたいのか。

彼女は欲しいか。

どんな女子がタイプか。

身長は伸びるか。

おいしいパン屋が近くにある。

駅から高校遠くね?

真面目な話からふざけた話まで。たくさんした。

自分は彼女がいるからってずいぶん惚気てくれたよな。

ドンマイ、そのうちできるよ(笑)とか。

楽しかった。全部覚えてる。


しかし、文化祭が始まる直前。急に学校に来なくなった。いつもなら駅で待ち合わせてから一緒に学校に行くのに、全然来なかった。なんでだろう。その時はそう思っていた。理由は夏休み前の終業式の時にわかる。


あれから全然学校には来なくなった。ずっと一人で学校に行った。自分の先輩に心因性の病気で学校に行けなくなった人がいたため、その人と同じように心が弱くなったんだろう、と思っていた。大きな間違いを犯した。

終業式。慶人は学校にきた。


(珍しくきたな、終業式ぐらいでなきゃまずいか。)


と思っていた。しかし、様子が違う。前に比べて明らかに痩せているしニット帽をかぶっている。


「よう、久しぶり。」


慶人と目が合った。


「元気してた?それどうしたの?」


「ああ、これ。実はさ…」


そう言って慶人はニット帽を外した。髪が半分、ごっそり抜けていたのだ。髪が抜ける?半分?理解が追い付かない。呆然としている俺の顔を見ながら言う。


「薬の副作用で抜けたんだよ。」


「薬?なんの?」


「癌になっちゃったんだよな。」


「癌?治るのか?治るよな?」


「どうだろうな。若いから、医者にはこれからの頑張り次第で治るって言われた。」


そんなことを笑いながら言う。笑う慶人に若干イラつく。笑って済ませられるものではない。


【ビービー!!】


うるさい、何の音だ。黙れ。…てか、今いつ?高校じゃないなら…。

はっと目を覚ます。床が冷たい。どうやら居間で寝落ちしたらしい。慶人が死んで二日目の朝だ。なんの感慨もない。もう…モノクロの視界には何もうつらない。


今回はこれでおしまいです。

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