やっつけて

前も後ろも右も横も囲まれている。絶体絶命か?どうしたら。ベテランに聞いてみようとリュカを見上げると、剣をしまった。


「大丈夫だ、冷静に1匹ずつ対処していけばいい」

「って言っても、」

「大丈夫だ。俺も多少は魔法が使える。スライムくらいなら余裕だ」


リュカは落ち着いていて、さすがだった。魔王を倒すだけのことはあるな。スライムの方に手をかざし、呪文を唱えると、先程のザカリーよように炎が出た。

しかし、多くに囲まれるとやはり焦るもので。どうしよう、まずは私も魔法を試すべき?それともステッキで殴ってみる?


「ぎゃー!どうしよこれ!どうしよ!どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ!!!」


いや、他に焦るやつがいると、わりと冷静になれるものだな。ユカは羽をパタパタさせる回数が増え、上下左右に飛び回っている。


「とりあえず落ち着けや」

「イテー!」


ユカをステッキで殴ると、ワニがパニックになって巣穴から出たり入ったりするところを叩くゲームの叩かれたワニの声がした。


「ちょっとー!ステッキの物理攻撃はー!単純に痛い!!」

「いいから。とりあえずあんたも火とか吹けないの?ドラゴンでしょ」

「全てのドラゴンが火を吹けるなんていう常識は間違いだいっ!」


なんだその言い方は。ムカついたので、もう一度叩いた。


「いいからやってみてよ」

「やってみてって言われたって!!」

「ユカ!!イメージしてみて!魔法はイメージが大事なんだよ!」


リュカの横で、手から火を放出しまくっているザカリーがユカへアドバイスをしてきた。


「えぇ〜!?……こう!?」


ユカは大口を開け、息を出す。すると。


「………」

「……、なんか出た?」

「……出た。なんか白い息…?みたいな…」


ザカリーはそのイメージだよ!と、笑って、またスライムに集中し始めた。

確かに今、何かが出たのは間違いない。だが、それが使えるかどうかは別の話であるわけで。


「役立たずはいりません」

「なーっ!?役立たずとは酷いーー!!」


ユカが暴れまわってるのを放置して、私は呪文書を開いた。とりあえず火が出せればいいのか。うーむ…と、頭を悩ませて思考を巡らせた。カリンの知識を、引き寄せる。

大量の敵、切っても倒せない、きりがない…。

そうやって行き着いた先は。

ページを思い切りめくる。あの呪文が使えそうだ、と頭の中でよぎったのだ。

よし、合っていた。これなら使えそうだ。

私は2人のように、手をかざした。スライムのいる方向へ。


「ブラックホール・アウト」


対象は、スライムのみで。

…いや、イメージでいけるなら声に出さなくても良かった。恥ずかしい。

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