終の幼稚園

おばあちゃんが、施設にはいった


そこはまるで幼稚園のようだった

歌を歌ったり

簡単な踊りをやったり

簡単な何かを作ってみたり


幼稚園と違うのは

未来がないことだった


成長なんてない

治癒なんてない

目の前に居る人すら

誰だかわからなくなっていくんだ

自分がどこにいるのかも


おばあちゃんを形成していた記憶だとか思いだとか

そういうものがどんどん消えていくんだ

彼女であって彼女でない人がそこに居た


私の名前も呼べない

きょうだいの名前もわからない

住んでいる場所もしらない

息子である父すら分からない


あなたのこころは今どこにいるんですか

あなたのこころは今何歳なんですか

今いるここをどこだと思っていますか

この毎日をどんなふうに思っているんですか


届かぬ言葉

どこでもない、いつでもない、この瞬間

ここにいるあなたは誰なんですか


長く 長く

苦労して生きてきた結末が

こんなだなんて


これだから これだから

こんな世界 大嫌いなんだ

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