殺された少女は復讐の夢をみるのか
峰岸ゆう
第1話 窃盗犯を逃がす刑事
「大バカモノー!!」
部屋中に響きわたる怒鳴り声で、周囲の人間がそちらを向く。
「窃盗の現行犯で逮捕したホシを、警察署までせっかく連れてきたのに、みすみす逃げられる刑事がどこにいる!?」
「……で、でもですね。課長」
「でもじゃないっ!」
ぴしゃり、と言い切られ、びくっと身体をふるわせる木下。
「まったく……言い訳はいいから、さっさと捕まえに行ってこい。今日中に捕まえられなければ始末書百枚だっ!」
「は、はい~」
木下は脱兎のごとく走り去る。
「やれやれ。……希望ちゃん」
「はい。課長」
「木下が連れてきたスリの男の顔写真を他の奴らにも配ってやってくれ。常連だから資料もあるだろう。見つけたら任意でひっぱってくるように」
「わかりました」
鞭をたたきながらも、部下を思いやれる。ここが現代ではパワハラといわれかねない叱咤激励も許されるところかもしれない。
「それで、うちにきたってか?」
都内にあるマンションの一室。
表札には“日下部探偵事務所”とかかれている。
「頼むよ、今日中に捕まえないと課長にまた怒鳴られる」
「まぁ、すぐ見つかるとは思うが……」
木下の前に座っているのは、黒縁めがねをかけた優男。
男の名前は日下部真。
中学生からのつきあいで、もう十五年になる。
その男が曇った表情で、台所でたっている女性を見る。
彼女の名前は美咲愛。
かつて、木下とは三日だけつきあったことがある元カノというやつだ。
はたして、三日で彼女と言えたかどうかは微妙だが。
「…………」
「だめだって」
無言で首をふる彼女をみた途端、木下が泣きそうな顔をした。
「そんな~」
「とはいえ、友達の頼みを断るのも気が引けるから、居場所だけ聞いてやるよ」
「は? 居場所? 知ってるの?」
「これから聞くんだよ」
それだけ言うと、部屋のすみに置いてある電話の前に行き、なにやらメモをみながら電話をかけだした。
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