Q.???しないと出られない部屋ですか?

ヒトデマン

A.???して脱出する!

「???しないと出られない部屋」

 その部屋にはデカデカとそんな看板が取り付けられていた。部屋の色はピンクに染まっており、大きなダブルベッドが一つ、その上にそれぞれ。その内装はそうさながら──であった。


「なんなのよこれーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

 学園のマドンナ、色愛しきあいれんは部屋の光景を見てそう叫ぶ。彼女は目覚めるといつの間にかこの部屋のベッドの上にいたのだ。いつも通りの学園生活をし、いつも通り家に帰ろうと学校をでたところまで覚えている。それなのにこんないかがわしい場所に連れてこられていた。


 なにか犯罪に巻き込まれたのではないかと自分の体をチェックする。しかし衣服の乱れなどは特に見受けられず、変なことはされていないと安堵した。しかし携帯などの連絡できるものは持っていなかった。


 さらに辺りを見渡すと部屋の隅で一人の男がガサガサと部屋の物品を物色していたのに気づいた。自分を連れ込んだのはこの男?──そう不安がりながら彼女はその男に声をかけた。


「ね、ねぇあんた。これはいったい……?」


 ふりかえってこちらを見た男の顔をみて彼女は愕然とした。

 その男は、校内で電気消費量の高い家電を大量に使用しブレーカーを落とす。グラウンドで花火(それも打ち上げ花火)を勝手に行う。プールに多種多様の魚を入れ水族館を開く。

 などなど、起こした問題行動は数知れず、そのくせいつも全教科満点をとり、教師たちに歯がゆい思いをさせている学校一の変人、丸筏まるばつわかる、その人だったのだ。


「あ、アンタはーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

「なんなんだ急に、うるさいから黙ってくれ。」

 わかるは眼鏡をチャキッっと直して言う。

「黙っていられるもんですか!私をこんなところに連れてきたのもどうせアンタなんでしょ!『???しないと出られない部屋』ってなによ!私を変なことに巻き込まないでくれる!?さっさと帰らせてもらうからね!」


 そういってれんは部屋の扉をあけて出ようとする。しかし、まったく扉は開かない。電子ロックがかかっていた。

「ちょっと!なに扉を閉めてるのよ!さっさと開けなさい!」

 れんわかるに詰め寄り肩を掴もうとすると──


「ぐわああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


 わかるの体に電気が走り、わかるは絶叫をあげた。

「きゃあああああああああああああ!!!!!!!!」

 れんも絶叫するわかるに驚いて悲鳴をあげる。わかるは倒れたのち、ヨロヨロと立ち上がると言う。


「お前と俺の体が触れると、こうやって俺の体に高圧電流が流れるようになっているようなんだ。わかったら、もう二度とうかつに触れないでくれ。」

「ご、ごめんなさい……って、アンタわかってたような口ぶりだけど気づいてたの?」

「さっき寝ているお前の状態を調べようとしたらわかった。」


「……て何勝手に触れようとしてたのよ!」

 れんわかるに平手打ちを食らわせる。室内に再びわかるの絶叫がこだました。


 落ち着いた二人はベッドに腰かけ、状況を冷静に分析していた。

「自己紹介から始めよう。俺は丸筏まるばつわかる。お前は?」

 わかるの言葉にれんはポカーンとした表情を見せる。

「え?アンタ私の名前しらないの?学園のマドンナであるこの私を?現役高校生でありながらアイドルとして活躍してるこの私を?」


「しらん。」

「こんにゃろーーー!!!私はちゃんとアンタの名前覚えてやってたって言うのに!私の名前は色愛しきあいれんよ!覚えておきなさい!」

「それでこの部屋の状況なんだが。」

「おい!」


 二人は気を取り直して(こんどこそ)状況を冷静に分析していた。

 れんわかるの言動や、触れたときに流れる電気の存在から、わかるがこの状況を仕組んだわけではないということは理解した。だがこの状況を利用して自分にを強要してくるのではないかと警戒している。


「この部屋の扉には電子ロックがかかっている。1から9の数字を4ケタ打ち込んで解除させる仕様だ。そしてさきほど俺に電気を流したコレなんだが……」

 そういってわかるは手首のリングをれんにみせる。リングには液晶画面が付いていて「???しないと出られない」のメッセージが表示されている。そして『太陽』というタグがはってある。れんも自分の腕に同じものがついてると気づいた。


「俺はさっきそれを調べようとしてな……なにか気になるものは出ていないか?」


 れんは自分のリングの液晶画面を見る。するとそこには『地球』というタグがはってあり、わかるとは異なったメッセージが表示されていた。

「あなたの権限で接触時の高圧電流を解除できます。『???』するときに解除してください。相手のリングの『???しないと出られない』をタッチすると解除できます。」


 それを見たれんは顔を赤らめながらワナワナと怒りに震えている。

「あくまで私から『したいな♡』ってやらせる仕様なわけ……?上等じゃないの。」

「なあ何が書かれて……」

「同じ!おんなじものよ!」

 そういってれんわかるに自分のリングを見せないようにした。


「それでここから出る方法なんだが……」

「私は死んでもやんないからね!」

 れんの言葉にわかるは驚いた表情をする。

「おまえ……ここから出る方法がわかるのか?」

 わかるの発言に逆にれんが困惑する。


「いやいや……このラブホみたいな部屋とか……『???しないと出られない』ってフレーズとか……やることはしかないでしょ……」

「?」

 れんがそういってもわかるは頭にクエスチョンマークを浮かべたままだ。

「嘘でしょ……?」

「とんと見当がつかぬ、頼む教えてくれ。」

 わかるが顔を近づけてくる。れんは顔を真っ赤にしつつ言う。


「う、うるさいわね!そんなの!」

「わかった。」

「へ?」

 れんが目をパチクリさせる。

「こうなったら意地だ。お前の意見に頼らずとも、この部屋からでる方法を自分の力で見つけ出してやる。」


 わかるは部屋のなかのティッシュやらやらの物品をあさって箱の裏まで確認している。

 れんはというとベッドに座ってただじっと待っていた。

(ここに連れてこられてから何時間たったかわからないけど、すぐに家族が私が帰ってこないことに気づくはず!警察が助けにくるまで私のを守らないと!)


「なあこれなんだが。」

 わかるにいきなり尋ねられる。わかるはブルブルと震えるを手に持っていた。

「な、なによー!私に何をする気⁉道具越しになら、私に触れられるんじゃないかと思ってるんじゃないでしょうね!」

「いや、道具越しに触れても駄目だった。」

「なに一回挑戦してんのよ!」

 れんを弾き飛ばそうとビンタし、三度、わかるの絶叫がこだました。


がおかしい?」

「この、振動が不均一なんだ。」

「よくわかるわねそんなこと……」

 れんは呆れたような歓心したような声で言う。

「そこでこのなんだが。」

 わかるが手に持ったをみたれんはまた騒ぎ出す。


「あんたまさか!肌と肌が直接触れなきゃ大丈夫とでも思ってないでしょうね!」

「いや、それも無理だろ。」

「ま、まさかアンタそれもためし──!」

「さっきお前が服越しに肩に触れて電気が流れたんだから、こういう薄いのならなおさら無理だろ。」

「……そうね。」

 れんは自分の先走りぶりに顔を赤らめた。


「それでそのコン……をどうするの?」

 わかるを開封しておもむろにの膜を広げだす。

の振動が何かを表しているならそれはじゃないかと思ってな。」

「なるほど……即席のスピーカーってわけ、考えるじゃない、だてに全教科満点はとってないわね。」

 そして広げたを近づけると……


「あんっ♡、ああんっ♡、♡!、なのぉ♡!」


 甲高い声を上げる女性の音声が聞こえてきた。


「うがーーーーーー!!!!!!!!!」

 れんは即席のスピーカーをぶち壊して音声を中止させる。


「なるほど……」

「いや今ので何がわかったの!?」

 れんにはさっぱりわからなかったがわかるは何かをつかんだようだ。


「あとめぼしい情報源になりそうなのはこのテレビだけか……」

 二人は部屋につけられた大型のテレビの前に立っている。

「ものすっごく嫌な予感がするんだけど……」

 れんは電源をつけるのをとても躊躇している。

「よっ。」

 わかるが躊躇なく電源をつけた。

「おい!」

 れんはすぐに身構えたが流れてきたのはまじめな映像であった。


「我々の住む太陽系は太陽と惑星を含めて9の星で形成されていて……」

「ほっ、まじめな映像だわ。」

 れんは安堵の声をもらす。さらに十数分映像は流れ続けた。


「私たちの祖先は太陽から数えて四番目の星、地球に生まれて……」


「面々と遺伝子が受け継がれてきて……」


「つまり私たちがここにいるのは両親が子作りしてくれたおかげで……」

「ん?」


「私たちも子作りして次世代を残していきましょう!さあレッツ子作」

 れんがテレビの電源を引っこ抜いた。


「なるほど……」

「いやさすがに今のでわかるわけねぇだろうがー!」


「いや。」

 わかるは真剣な顔つきでいう。

「すでに情報は出尽くしたと考えるべきだ。」

「確かにもうろくな情報源になりそうなものはないと思うけど……」

 れんが辺りを見渡していった。


「俺たちをこの部屋に連れ込んだヤツらは俺たちを試している。ここまで見聞きしたすべてのものに意味があるととらえるべきだ。」

「ロクなものは全然なかったけどね……」

 れんがゲッソリした表情で言った。


 わかるは扉の前に行き宣言した。

「まかせろ、俺が必ずこの部屋からお前を出してやる。」


 *


「ハア、ハア。」

「も、もうやめなさいよ。あなたの体、電気でボロボロじゃない!」

 自信満々に宣言したわかるだったが、正解の文字列を入力できず、間違えるたびにリングから電撃を浴びていた。


「自信満々にお前を出すと宣言した以上、やめるわけにはいかん。」

「す、すぐに助けが来るかも……」

「来なかったらどうする?この食料もない部屋で何日持つ?水だけで人が生きられるのは一週間が限界だ。」

 そういってわかるは、またヨロヨロと立ち上がって扉の前に向かう。


「情報が足りない……だがすでにめぼしい情報は……」


 わかるは焦燥感を募らせる。だが不安そうに自分を見るれんを見て、笑顔でこう言った。

「安心しろ。最高でも9×9×9×9の6561回試せば扉は開く。」

 そういってまた電子ロックに手を伸ばす──


 ガシッ

 その手を、リングを掴まれる形でれんの手に阻まれた。

 電流は流れなかった。

「そんなの──そんなのアンタが死んじゃうじゃない!」

「だが他に方法は──」


 れんわかるのリングにタッチした。するとリングからアナウンスが鳴る。

「接触時の高圧電流を解除しました。脱出に必要な条件が整いました。」


 その後、れんわかるの両手を握って話始める。

「私ね、ほんとはずっとアンタに憧れてた。外面を良くしようと、必死に猫かぶってた私にとって自分のやりたいことに全力のアンタは、とってもとっても眩しかった。」


 そしてれんは上目遣いで言った。

「だから……。脱出しよう?一緒に。」


 わかるも静かにうなずいて言った。


「ああ……脱出しよう……謎はすべて解けた!」


「へ?」


 わかるはもう一度電子ロックに向きなおる。画面には新しく一番左に>(だいなり)が現れていた。


「正解の番号は左から……1,4,3,5だ!」

 そして電子ロックは解除された。


「……ええええええええええええ!!!!!!!!!????????」

 れんの叫び声が部屋中に響いた。


 *


「では順を追って解説しよう。」

「私の勇気はなんだったの……」


 わかるはまずテレビを指さして言った。


「重要なのはテレビで流れた番組の内容だ。」

「まともだと思ったら変だったヤツ?」

「最初に『太陽系は太陽と惑星を含めて9の星で形成されていて』と流れただろう?この9つというのが電子番号の1~9の番号と当てはまるのではないかと考えた。」

「なるほど、例えば太陽から数えて四番目の星である地球は4を表しているわけね。」


 次にわかるの残骸を指さして言う。


「あの音声ではという情報を得た。」

「それってあの……男の……ごにょごにょ。」

「おそらくそれは星の大きさを指しているのだろう。」

「そう考えちゃうの!?」


 さらにわかるは自分のリングのタグを見せて言う。

「次に候補となる星を見つける。まず俺のリングにあった『太陽』だ。これは数字の1を指す。」

「それと、私の『地球』で4ね。」

「それを見せてくれてたらもっと早く謎が解けたんだがな……」

「ご、ごめんなさい。」


 しかし、れんは疑問を浮かべる。

「でもあと二つの星の番号は?そんな情報あったっけ?」

「あるだろう。ベッドの上に。」


 そういってわかるはベッドの上の枕を指し示す。

「♂と♀のマークの付いた枕だ。」

「それがどうしたの。」

「♂は火星を、♀は金星を表している。」

「……は?」


 れんはとぼけた顔をしたあと叫んだ。

「いやいやいや!あれって性別を表しているんじゃないの!?」

「それは分類学の父、カール・フォン・リンネがそう決めたんだ。もともとは惑星を表す記号なんだよ。」

「えっとじゃあつまり、火星が5、金星が3ってわけ?」

「そう、つまり入力する数字を1,3,4,5に絞り込めたわけだな。」

「なるほど……♂が火星……仮性……ぷぷっ!」

「笑う要素あったか?」


 れんは自分の思考がピンク色ぎみなのをようやく自覚し始めた。


 そして二人は電子ロックに目を向ける。

「そしてお前が勇気をもって、自分が感電するかもという恐怖に打ち勝ち、俺のリングに触れてくれたおかげで最後の情報が表示された。」

(あっ、そういう風にとらえたんだ。)

「電子ロックの>(だいなり)は大きさ順に打ち込めということ、もちろん数字の大きさ順じゃない。対応する星の大きさ順だ!」

「それなら私も分かるわ。太陽がもちろん一番大きくて、あとは地球、金星、火星の順ね。」

「そう、だから1,(太陽)4,(地球)3,(金星)5,(火星)となる。」

「そしてロックが解除されたのね。」


 二人はドアの前にたってレバーを掴む。

「さて、俺たちをこんな部屋にぶち込んだやつらを解明するという謎がまだ残ってるな。」

「その時は私も協力するわ、現役アイドルにこんなことをして、どうなるか思い知らせてやる!」


 そして二人はドアを開き、この部屋から脱出していった。


 ──『謎解き』しなきゃ出られない。



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