第53話
花音さんを部屋に残して、あたしと那月さんはキッチンへと向かった。
どうやらキッチンに入らせてはダメなものが
……いや、さすがにアレと一緒にしては気の毒かも。
あの黒い方が。
※
「那月さんはお料理得意なんですね?」
結局というか最初からというべきか。手伝いではなく、どちらがより美味しいと思ってもらえるお粥を作れるか勝負をすることになった。
「まあ、昔からしていたからね。……ま、まあ、凝ったものを作るようになったのは最近だけれども」
「あーはいはい、それは良かったですね〜」
「……キミ、ボクの扱いが雑になっていないかい?」
そんな軽いジャブを交わしながらそれぞれ調理の手を進めていく。
「……時に真由君」
鍋を火にかけた時、ふと那月さんが尋ねてきた。
「ん?なんですか?」
「彼女と二人きりにさせて良かったのかい?」
「あぁ〜…」
妙に真剣味を帯びた表情の那月さん。
おそらく花音さんのことを言っているのだと分かった。
そう、この人もおにいちゃんに好意を持っているっぽかったから………、……でも。
「大丈夫なんじゃないですか?」
そんなケロっとしているあたしを怪訝そうに見つめる。
「そんなあっさりと……。まさか、さっきのあれで絆されたんじゃないだろうね?」
「少なくとも抜け駆けでデートをしたりする人よりも安全だと思いますけど?」
「しまった。ボクもギューっとしておくべきだったか……」
「いやですよ汚らわしい」
「……本当に雑に扱ってくれるじゃないか」
「雑っていうか手酷くですけど……ちょ、なんで少し嬉しそうなんですか」
「別に嬉しくなどないさ。これっぽっちも、全く、嬉しくなどないこともない」
「いやめっちゃ頬緩んでますやん」
え?何この人。まさか……そういうことで?
「いや、まあそれは別としてだね、今ボクは少し嬉しいんだ」
え?やっぱりそういう……?
「実は姉が一人いてね。それでボクはいわゆる『妹』という立場なんだけれども、少し『お姉さん』にも憧れのようなものがあって………」
ああ、そういう……。
「キミ、ボクの妹にならないかい?」
「ヤです。あたしはおにいちゃんだけの妹なので」
「即答だったね……そうか、それは残念だよ」
「……なんでちょっと嬉しそうなんですか」
「いいや、別に嬉しくなどないさ。ただ、本当に好きなんだなと思ってね」
羨ましがるようで慈しむような、そんな顔で見つめる那月さん。
「な、なんですか、それ………ふん!」
「ははは、ツンデレというものかな?」
「違いますよ!?」
それでも、多分最初よりも場の雰囲気は解れていた気がする。
「……ところで、本当に二人きりにして大丈夫だと思うかい?」
「どうせ何も起きませんって。取り越し苦労ですよ」
「そういえば、前に彼女から十宮君が膝枕でぐっすり眠ってくれたと聞いたけれども。かなりスキンシップは多いんじゃないかな?」
「……ま、まあ、きっと大丈夫なんじゃないですか?」
「……まあ、そうだね、あまり気にしすぎてもあれだからね」
「そ、そうですよ……」
しばらく無言が続いた後。
「も、もう出来上がったんじゃないんですかね?」
「そ、そうだね、もう出来上がったんじゃないかな?」
「出来上がったなら早く持って行かないといけませんよね」
「そうだね、早く熱々のうちに持っていってあげようか」
「「……………それじゃあ!」」
お粥が落ちてしまうんじゃないかってくらい素早く、どちらも我先にと階段を駆け上がっていった。
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