特別編 たまには手紙を書いてみた。ポストには入れない手紙を。
年末特別編です。時系列とかは気にしないください。
一応、蓮也(16歳)に友達ができた後の話です。
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「ん? これは……?」
年末恒例の大掃除の日。
たまには部屋のクローゼットの奥まで片付けようかと思ってあれこれと物を探し分けていると、一番奥にあったダンボール箱から、妙に手作り感満載の封筒が発見された。
『12さいのぼくへ』
表には、まったく読めないほどではないけど非常に読みづらい絶妙に崩れた文字でそう書かれていた。
「手紙か何かかなあ?………なんだっけ、これ?」
幸か不幸か、記憶にうっすらとも残っていなかったその手紙は、どうやら昔の僕が未来の僕に宛てた何とも変な手紙らしい。
……学校に埋めたタイムカプセルに入れ忘れたやつかなあ?
※※※
一旦片付けの手を止めて、封筒の中身を確認してみることにした。
なぜ自分が12歳という年齢を指定したのかはさっぱり分からないが、仮に12歳になっていなくとも、対象年齢よりも数年早く白い悪魔のプラモデルを完成させられた僕ならば見ても大丈夫だろう。というか今の自分はとっくに12歳を過ぎてしまったし。
すでにのりが剥がれかけて壊れそうな手作りらしい封筒を、ゆっくりと丁寧に開ける。
すると、中から2枚の紙が出てきた。
とりあえず、1枚目を見てみる。
『 蓮セ 6さい 』
……仕方ないのかどうなのか、“れんや”が“れんせ”になっていた。
というか、よく“蓮”が書けたものだ。
それでどうして“也”が書けなかったのか……。
まあ、昔の自分に今更文句を言っても仕方がない。ここからもこういう間違いはあるかもしれないけれど、いちいち引っかかっていないで頭で上手く変換しながらその下に続く文字を読み進めていこう。
『たぶん僕がこれを読んでいるときは、もう僕はいないと思う』
……ん? あぁ、そっか。
……そりゃあ、6歳の僕はいないよね、だって僕はもう16歳だから。
おっと、こんなことでまた引っかかってしまった。
こういうのはスルーしなければ。きっと漫画かなにかに影響されて使ってみたかっただけだろうし。
『だから、そのときまでに僕が敬語を使うに値する人間になっている事を切に願う』
……これ、本当に6歳の僕が書いたやつかなあ?
妙にしっかりしているような……でも小さい子が無理して背伸びしているようにも思えるし…………、
『僕は今のところ友達が一人もいないので、手紙を書きたいってなっても、手紙はこうやって未来の僕宛てにしか書けないことをここに記しておく』
僕だ!たしかに6歳の僕だぁ!
なんて悲しい判明の仕方なんだ……。
『だから、12歳の僕に友達がいるという前提で手紙を書き進めます。本当にそんな未来だったとしたら、そしたら僕はめちゃくちゃ敬意を持って、あなたの事を心から尊敬します』
敬語になってるううう!
6歳の僕、16歳の僕には友達がいるよ!?やったよ!!
…………本当に、12歳の時に開けなくてよかった……。
世にも恐ろしいそんな悲劇を想像すると、心底絶望した目で自分を見つめる幼い僕の姿が目に浮かんだ。
もう大丈夫だよ、6歳の僕。
そういえば昔、ルールのよく分からないパソコンゲームにひたすら熱中していた事もあったね。
後になって分かった事だけど、そのゲームの名前は『マインスイーパ』というらしいです。
いやあ、遠い昔の話だなぁ。
………そうだね、今から2年くらい前までだったね。
それはそうと、手紙を読み進める。
持った手紙が少し滲んで見えるのはきっと汗のせいに違いない。そうに違いない。
『未来はすごいですか?車は空を飛んでいますか?』
おお、この辺はちゃんと子供らしい無邪気な内容だなあ。
『楽しいことは増えましたか?一人あやとりですごい技ができた時、周りを見渡して誰もいなくて、激しい虚無感に襲われたりしていませんか?』
…………少し、泣いてもいいですか?
※※※
『───という風に、いろいろ良い事があればいいですね。今の僕はとても期待をよせています』
ごめんよ。それらの期待、ことごとく外れているんだ。
特に『未来にはなんでも自由に思った通りに実現できる道具があると思います』は無理があると思うんだ。
その後に書かれていた『この広い世界にいる人たちの中で、ほんの僅かでもいいので僕と友達になってくれる可能性のある人を見つけられる道具もあるといいなと思います』は、……もう………。
いいんだよ?世界中に希望を求めなくても。
別に、可能性だけで探さなくてもいいんだよ?
結局、国内で友達できたよ?
そんな慈愛に満ちた気持ちで手紙の続きを読み進めると。
『このように、未来には沢山の夢や希望が溢れているでしょう』
1枚目の手紙。それはこう締め括られていた。
『だからどうか夢を捨てないでください。希望を持ち続けてください。どんなに苦しくても、辛くても、きっと大丈夫です。僕は、12歳というのはいろいろ多感な時期だと聞きました。たぶんこんな僕だから、それはそれはいろいろ大変なことがあるだろうけれど、絶対に大丈夫です。よくわからないけど、なんとなくそんな気がします。とりあえず今は頑張ってます。これからも頑張ってます。だから、子供の僕に負けてしまうような、そんなカッコ悪い僕にならないでください。ファイト!!!』
……………。
咄嗟に上を向いた。
……不意打ちだなんて卑怯だぞ、昔の僕。
なんであんなことばっかり書いてたのに、最後の最後でこんなこと書くんだよ。
僕はその時、この手紙が何のために用意されたものか、ようやく分かった気がした。
「まったく、どうにもお節介焼きだったんだなあ、6歳の僕ってやつは」
どうだろうか。
僕は、僕でいられてるだろうか。
夢や希望を捨てずに持ち続けて……いられたろうか。
ふとそんな事を考えた時、僕の頭には、しっかりと思い浮かべることのできる人達がいた。
──それは、すぐにでも手紙を出したくなるような。
だから、この手紙に書かれている未来の中でそうそう実現されているものは無いけれど、これだけははっきりと昔の僕に返せるだろう。
「ああ、きっと、お前は頑張ったんだ。そして、それに負けなくらい今の僕は頑張ってるぞ!!」
まぶたの裏で、嬉しそうに笑う僕の姿を見た気がした。
そんなに目が潤んじゃって、ずいぶん格好がつかないみたいですけど? と楽しそうにからかっている気もした。
でもカッコ悪くなければそれでいいと思う ってやっぱり笑ってるんだ。
※※※
「…………そっかあ、まさかこんな事してたなんてなあ。すっかり忘れちゃってたよ」
すっかり遅くなってしまったけれど、ちゃんとこの手紙を見ることができて良かった。いつもは少し面倒な大掃除にも感謝しなければ。
……それから、僕にも。
「ありがとう」
そう呟いて目を軽く袖で擦った後、そういえばまだ封筒には紙が入っていた事を思い出して、視線を残されたもう1枚の方に移す。
そこには短くこう記されていた。
『追伸 そんなわけで、お母さんが大切にしていたネックレスを壊してしまったことは、きっと今よりも強いであろう12歳の僕が謝っておいてください』
「6歳の僕うううぅうううう!!!」
つい先ほど目を赤く腫らしたばかりの僕は、まさかの帰着にそう叫ばずにはいられなかった。
あと、ダンボール箱のさらに奥にあった壊れているらしいネックレスは、一体どうすればいいのでしょうか?
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これで今年の友修羅納めです。
今年も友修羅を読んでいただきありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
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