第42話 お残しは許しまへんで。(ニコッ)


「二人とも、わざわざ来てくれてありがとね〜。蓮也の母です」


「……同じく父です」


現在、リビングに一旦集まって、千堂さん、僕、神谷先輩、そしてテーブルを挟んで両親の順で座っている。

なぜ僕が真ん中にいるのかは分からない。


「は、はい!千堂、千堂花音と申します!」


選挙の演説かと思うような自己紹介。

まだ緊張してるのかなぁ?

やっぱりそういうものなのか……、確か僕が千堂さん家に行った時は……。

『まぁ、この歳でお姉さんなんて……』

あ、はい。緊張してましたね。

それで変な方向に話が向かって行ったね。

はっきりと思い出しましたよ。

まぁ、さすがに今回は大丈夫かなぁ……。


「花音ちゃんね。これからも蓮也をよろしく」


「は、はい!」


「それで、あなたが……」


「神谷那月です。学年は十宮君の一つ上で……」


「あらまぁ、そうなの?最近の学生さんはずいぶん大人びてるのねぇ」


「いえいえ、そんな……」


良かった……!無事に会話が弾んでいる。

十宮君と呼ばれるたびに父さんがピクッと反応しているけど、まぁそれはいいや。


「──そうそう、二人ともお腹すいてない?良かったらたくさん食べていってね?」


テーブルの上にこれでもかと隙間なく並べられたご馳走達は、早く胃の中に入りたいと叫んでいるようだった。

………いや、これ普通に断りにくいレベルで気合が入ってる。

二人とも大丈夫かなぁ?


「はい!いただきます!」


「それではお言葉に甘えさせていただき……」


よかった、大丈夫みたいだ……。まぁ、これくらいの量なら皆んなで分け合ってなんとか全部食べれるかも………。


「向こうのテーブルにもまだおかわりあるからね」


母さん!



※※※


「それで蓮也ったら公園でどんぐりを拾って……」


「そうなんですね……」


ウチでは食事中の会話はOKなので、いつもこうやって結構喋りながら食事が進む。

……べ、別にこの時間が僕の一日の中での一番会話が長い時間というわけじゃないんだからねっ!

違うんだからねっ!


…………ぐすっ。


「あ、そうそう。この前のメロンを切って……」


あ、ファミレスでもらったメロンだ。

いや、自分でも何を言っているのか分からないけど、僕たちはファミレスを出たと思ったら桐箱に入ったメロンを持っていたんだ

………ほんとに何で?

また行くことがあったら店長の安否を確認しておこう。

まぁ、それはさておき。

あのいかにも高そうなメロン、一体どんなに美味しいんだろうか………メロンといえばやっぱり一口サイズにカットされたものをそのまま一つ一つ味わって食べるのが一番だよね!


「じゃーん、生ハムメロンにしてみましたー!」


母さんは得意げに台所から大きな皿を持ってきて、それをテーブルの空いたスペースに置いた。

……………生ハム、だと……?

バカな。そのままで食べた方が絶対に美味しいに決まってる。

せっかくのメロンの甘さを生ハムの塩見が全て台無しにしてしまう。

生ハムは生ハムで美味しいけど、それぞれ別で食べた方が一番に決まってる!

母さん、どうしてこんな悪魔のような組み合わせを作ってしまったんだ……。

だが仕方がない、出された料理を平らげないのは食事人としての恥だ!(食事人ってなんだ)

いざ、いただきます。

パクッ。

こ、これは……!

生ハムの塩味とメロンの甘味がベストマッチで絶妙なハーモニーを生み出していて、一言ではとても表せないこの感動をあえて言葉にするとしたら……


「「おいしい!!」」


先に言われたぁ!



「本当に蓮也ったら楽しそうで、お母さん嬉しいわ」



けれどこの幸せがいつまでも続くことはなく。


ゆっくりと苦しさが体を蝕んでいき、



──────確実に、終わりが近づいていた。



「ごめん……僕もう限界……」

「すみません、私もお腹いっぱいで……」

「ボクも、こ、この巨大エビフライで最後に……」


ギブアップの合図を出す僕たちの目の前には、食べても食べてもちっとも減ってくれない料理の山がまだ残っているままだった。


「大丈夫よ、気にしないでね?残ったらぜーんぶお父さんが食べてくれるから」


「……え゛!?」


父さん……!

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