第34話 いつから風呂に一人だと錯覚していた?
「はぁ〜」
湯船の中でぐったり……じゃなかった、ゆったりと足を伸ばす。
シャワーだけで済ませようかとも思ったけれど……そうしなくて正解だった。やっぱり湯船に浸かるのが一番いい。
風呂はいいな、体も心も癒してくれる。
ゆずの良い香り(もちろん入浴剤)でさらにリラックスできそうだ。(※個人の意見です)
「かぁぁ〜」
つい無意味に声を出してしまう。
風呂あるあるだと思う。
「それにしても……」
天井を見上げ、ぼーっと考える。
(今日は色々あったなぁ……。
いや、ずっと寝てたから今日というか昨日というか。
テストも無事終わって……そうだ、テストがあったんだ。……なんか色々ありすぎてすっかり影が薄くなってた。そしてそれから友達の、千堂さんの家に……。
あれは……遊びに行った、と言ってもいいのかな?それともただご飯を食べに行った、と……。いや、きっと言っていいに違いない。そうに違いない。
そういえば、ずいぶんと長い時間千堂さん家に居たような気がする。具体的には4話くらい。
……いや、なんだ4話って。どうやらまだ疲れてるみたいだ。もっとしっかり温まろう。
え〜と、それで千堂さんの家では……あ、膝枕。それにあ〜んも。
いやぁ〜今思うと初めて行った友達の家で寝ちゃったのは………あれはどうなんだろう?
大丈夫だったかな?たしか、千堂さんも寝ていいとは言ってくれた……はずだけど、まさか知らないうちに膝まで借りてたなんて……。
千堂さんのお母さんにも見られたし。
しかも謎の流れであ〜んって……まぁ、ハンバーグおいしかったけどさ。
それに千堂さん、顔真っ赤だったなぁ。
僕も顔赤かったんだろうか?
どうだったんだろう。
それであの後、帰ってきてからじゃっじめんとだったんだっけ。
起きたら地下室に。
あれ?そういえば、なんで地下室に布団があったんだ?
カラオケ……。
いや、関係ない?
あぁ、そういえばなんだかんだで1日飯抜きだったんだよなぁ。
早く戻って食べなきゃ。)
蓮也はそう思って湯船から出ようとして…
(よし………。あれ?力が入らない。
おかしい。
しかもだんだん目の前が暗くなっていってる気がする。
ははっ、なんか最近こんなんばっかだなぁ……。
はぁ……。)
ブクブクブク……頭もお湯の中に少しずつ沈んでゆく。
「おにいちゃん⁉︎」
気を失う直前、真由の声を聞いた気がした。
※※※
「……ちゃん、おにいちゃん!」
ん…?真由の声がする。
なんだろう?
確かめるため、なぜか妙に重たいまぶたを少しずつゆっくり開く。
「ぅん……あれ?」
ここは……
「あぁ、よかった。やっと気がついたぁ〜!」
「うわっ、ちょ、ちょっと待って」
真由が抱きついてくる。
父さんも母さんもいる。
ここは……リビング?
「湯船で気を失ってたのよ。お風呂、そんなに長かったかしら?空腹がいけなかったのかも」
「…………まったく……」
どうやら僕は風呂で気を失ってしまったらしい。
父さんがリビングまで運んでくれたみたいだ。
いつの間にか服も着ていた。
「なんだか心配かけてごめん」
「無事だったから大丈夫よ」
「………まったく……」
「でもお父さんったら、もーそれはそれは顔が真っ青で。一番慌ててたのよ」
「お母さん!」
それ以上言うなぁ!と言わんばかりの勢いで母さんの方を向く父さん。
「なにか?」
「いえ、なんでもありません!」
父さん……。
※※※
「こういう時はしっかり食べなきゃ」
ということで、とりあえずご飯を食べることになった。
目の前には茶碗いっぱい山盛りに盛られたご飯とたくさんのおかず。多くない……?
母さん達も夕飯がまだだったらしく、一緒に食べることになった。
「……そういえば、なんで気を失ってたのが分かったの?」
確か思い出す限りでは、湯船で動けなくなったような気がする。
ぼんやりとしか覚えてないけど、助けを求めて何か声を上げてはいなかったと思うけど……。無意識のうちに叫んだのかな?
「あ、それはあたしが」
「真由が……?」
真由が見つけてくれたのだろうか?
「……あ!」
真由が固まった。
「“あ”……?」
「……いや、やっぱりなんでもないよ」
……かと思えば、急になんでもないと言い出した。
「でも今、真由が って」
「なんでもないよ気のせいだよ聞き間違いだよ」
「おぉ、うん」
謎の迫力にちっぽけな僕の疑問は握り潰された。
これが、圧倒的な友達パワー……っ。(?)
「とにかく、無事でよかったね」
「なんか誤魔化されたような……」
「何か言った?」
「滅相もございません」
僕は犬。そう、飼い慣らされた犬だ。
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