第31話 小悪魔のマユ

しばらく正座をしていたせいで足が痺れて動けなくなった後、ふと思い出した疑問を真由にぶつける。


「……そういえば、ここってどこ?」


なんだか家と同じような感じはするけど……。

膝枕も終わり、じゃれあいも終わり、動けない僕の横でふにゃふにゃして寝転んでいる真由が答える。


「ここはねぇ……地下だよぉ……」


なるほど、地下か。

地下ねぇ。

地下地下……。

…………


「地下ぁ⁉︎」


うぐっ!いきなり動いたら足が……

思わず立ちあがりそうになるが、まだ足の痺れが取れておらず元の姿勢に戻る。


「そうだよぉ……お家の地下ぁ」


動揺している僕とは対照的にあっけらかんとしている真由。


「……家に、地下なんて、あったっけ?」


なるべく静かに尋ねる。


「あったよぉ」


「へ、へぇ〜そうなんだ」


あれ?もしかして僕だけ知らされてなかった?

……なんか少し悲しいな。


「ちなみにね……この部屋って、防音、バッチリなんだよ……?」


なんて感傷に浸るのもつかの間、さっきの悲しみはどこに行ったのやら。

いつの間にかふにゃふにゃモード(今 名付けた)から戻りつつある真由の言葉に、本能が叫んでいる。

“ここから逃げねば”

……なぜ?


「それよりもおにいちゃん……」


とりあえず足の痺れが治るまで時間を稼がねば。


「ねぇ……おにいちゃん」


といってもここにはあんまり物がなさそう。

何故か僕たちが寝ていた布団だけがポツンと敷かれているだけみたいだ。

食料庫って感じでもないなぁ。

そもそも地下って言ったって、ここはなんの部屋なんだ?

う〜ん。

そうやって少し考えていると


「……ちゃん……おにいちゃん!」


「うぉ!」


いつの間にやら真由の顔が僕の顔にくっつくくらい近くにあった。


「もう、全然聞いてないんだから」


「ごめんごめん」


「それで……」


「ちょっと待って一旦離れよう」


そのままの距離で話そうとする真由。


「ねぇ、おにいちゃんっ」


「なんでそんなトロンとした目になってるんだなってるんですか⁉︎」


依然離れることはなく、むしろジリジリと近づいているような気がする。


「おにい、ちゃんっ……」


ダメだ。真由の様子がなんか変だ。

どうして……?

考えろ……そう、真由の話によるとここは地下……

地下……空気……そうだ空気だ!

きっと酸欠なんだそうに違いない!思考能力が鈍ってるんだ!

どうしよう、急いで空気を………あ、ドアはあそこだ!少し離れたところにドアのようなものを見つけた。

今は足の痺れなんか気にしている場合ではない。グッと気合で立ち上がって真由を連れてドアへと急ぐ。


「おにいちゃん⁉︎」


お姫様抱っこの要領で真由を持ち上げる蓮也。

真由を助けようと必死のため、もちろん無意識で。


「大丈夫だからな、真由」


「え、ちょっ……」


いきなりお姫様抱っこをされて何が何だか分からず混乱しながらも、なんだかんだでお姫様抱っこをされた喜びを噛み締めて頬を赤く染める真由。


「えへ、えへへ……」


しっかりちゃっかり蓮也に掴まる。



(あれ?何か忘れてるような……ま、いっか♪)



※※※


よし、ドアはもう すぐそこだ。

真由ーーー!

バンッ!

ほとんどぶつかるようにドアを勢いよく開ける。

ちなみに開き戸。


「グオッ!」


……と同時におっさんの短い声が聞こえる。

というか父さんの声。


「あれ?」


目の前には膝立ちの母さん。

何かにぶつかった確かな感触があったドアを閉めると、そこには力尽きた父さん。

……父さん!

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