伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全

第1話ノヴァ伯爵令嬢視点

 大変なことになってしまいました!


 兄上とリアム様が決闘するのです。

 確かに私を大切にしている兄上が怒られるのも仕方ありません。

 リアム様は身勝手な理由で私との婚約を破棄されました。

 詫びも言葉にされませんでした。

 ですが私は、事を荒立てる気はなかったのです。


 父上は大将軍に任じられておられます。

 兄上は近衛騎士団長に任じられておられます。

 ともに王国の武を束ねる重臣です。

 その我が家が、王家から分かれたグラント公爵家と反目するなど、あってはならない事なのです。


 そうなのです。

 リアム様はグラント公爵家の長男なのです。

 いずれはグラント公爵家を継ぐ方なのです。

 我が家は父上と兄上が重職に任じられているとは言え、伯爵家でしかありません。

 家格で言えば、公爵家とは大きな差があるのです。


 それに、正直に言えば、リアム様の事は好きではありませんでした。

 女好きで軟弱なリアム様は、私の好みではないのです。

 私の好きなのは、気高い心と鍛え上げた身体の騎士様です。

 貧弱で軟派な優男には、正直怖気がします。

 リアム様との婚約を承諾したのは、国の為に毒を飲む思いで受けたのです。


 それにリアム様は女を見る目がありません。

 リアム様を誑かしたのは、アメリアと言う子爵令嬢です。

 確かに容姿は美しいですが、心は真っ黒です。

 公子様たちは騙されていますが、令嬢たちの評判は最悪です。

 多くの公子様たちから、家が傾くほど貢がせて、貢ぐ物が無くなれば塵芥のように捨てると評判なのです。


 普通なら公子様たちから報復されるのですが、アメリアはとても強かなのです。

 捨てる前に新たな男を誑かし、その方を盾に使うのです。

 常に上の爵位の公子様を誑かすのです。

 いえ、新たな公子を誑かすのに成功してから、前の公子を捨てているのです。

 そして遂に公爵家公子のリアム様まで誑かしたのです。


 アメリアは兄上やアシェルにも色目を使ったと聞きますが、心身共に鍛え上げた兄上とアシェルを誑かす事などできませんでした。

 そんな兄上だからこそ、リアム様の軟弱を許せなかったのでしょう。

 第二王子のロバーツ様を証人に立てて、正式に決闘を申し込まれました。

 ロバーツ様が証人なら、陰で陰謀を企む事もできません。


 ロバーツ様は武を尊ぶ方で、兄上やアシェルと肩を並べて、魔獣退治に参加されたほどです。

 貴族や士族の中には、第一王子のイーサン様より国王に相応しいと公言する者までいるほどです。


 そんなロバーツ様が証人に立っておられると言うのに、グラント公爵家は卑怯な振る舞いをしました。

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