桜の記憶

「反対、とは言わねぇよ。ただ、俺にどうこうできる規模の話じゃないだろ? 万が一、本当にお前を人間にできる能力者がいたとして、そいつが海外に住んでる外人ならどうする? パスポート作って会いに行くってか? 勘弁だぞ」


「作れば良いじゃん。そのパスポート。どうやって作るの?」


「知らん。勝手に調べろ」


 ヒラヒラと手を振って、この話題はおしまいだと合図する。


「酷いなー」


 それでもブツブツと文句をぼやく桜。


 これで潔く引き下がるとは思えないが、それでもせめてこちらのやる気の無さくらいは伝わってくれただろう。


 それくらいの期待は込めて一旦気持ちを切り替えようと――思う間もなく。


「なんか納得いかない。雄治がどう言おうと絶対手伝ってもらうから。強制で」


「……何言ってんだお前は」


「いざとなったら、あれだね。雄治の記憶いじってでも無理矢理――」


「ふざけんな馬鹿。んなことされてたまるか」


 慌てて、俺は逸らしていた顔を桜へ戻す。


「だったらちゃんと手伝ってよ。あたし一人でどうすれば良いのよ? 空だって飛べないし」

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