桜の記憶

「……かなり厳しいと思うぞ? 探すあてもないんだろ?」


 渋面を作って訊ねると、少女はまぁね、と言いながら悪戯に表情を緩めた。


 何となく嫌な予感がしつつ次の言葉を待つ。


「でも、今回みたいになんとかなるかもしれないよ? 時間はかかるのかもしれないけど、そこはこの際雄治にも割り切ってもらうって方向で」


「いや待て」


 即座に手をあげ、話を止める。


 漠然と予感はしていたが、やはりそうきたかと胸中で呻く。


「どうして俺が割り切らなきゃいけない? 念のため言っておくが、手伝わないぞ」


「はぁ?」


「……んだよそのこいつ何言ってんだみたいな顔は」


 目と口を丸くする桜に、批難の視線を返す。


「あたしに一人で探させるつもりなの? 今まで一緒に協力してくれてたのに? 裏切り?」


「人聞きの悪いこと言うな。俺が協力したのはお前の記憶探しだけだろ。それが片付いたんだから、役目は果たしてやったってことだ」


 突っぱねるように断言し、厄介から逃れるように目を逸らす。

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