桜の記憶

「だけど……! あたしじゃあの人倒せないし、もし雄治にこれ以上何かあったらあたしどうしたら良いのか……」


「桜、一つ聞くけどよ、お前あいつに消されたいのか?」


「え……?」


 想定外の問いかけに、桜の反応が鈍る。


「このまま大人しくあいつに消されたり殺されても良いって、本気で思ってんのかよ?」


「それは……、やだけど。でも――」


「だったら、くだらねぇこと言うな。いなくなるのが嫌なら、生き残る方法考えるしかないんだ。帰る場所がないなら、この世界で生きれば良い。そうだろ?」


 無理矢理桜の言葉を遮って、俺は一気に捲し立てる。


「記憶なんて、ないならこれから作っていけば良いんだし、新しい解決策だってそのうち見つかるかもしれねぇ。それに……」


 間近から悪魔少女の瞳を覗き込む。


 初めて会ったときも確かこんな風に目を合わせたことがあったなと思いつつ、話を続けた。


「死なずに生き延びれば、桜を見に行ける」


「……さくら?」


 きょとんとなる彼女の声に、小さく頷く。


「そうだ。昼間言ってただろ? お前にこの世界での名前をくれた桜の花を見てみたかったって」


「あ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る