桜の記憶
すぐ近く、ほんの数メートル先に誰かの気配。
その正体には呻き声でもう検討がついていた。
「……桜?」
目立たぬよう配慮して、囁くように呼びかけてみる。
それに反応してか、僅かに音が大きくなった。
「ゆ……うじ?」
間違いないと、はっきり確信する。
一気に距離を詰め、声の出所に屈み込む。
「……お前、生きてんのか?」
倒れた状態の桜に手を伸ばす。
そっと頭に触れると、モゾリと動き応えてきた。
「生きてるよ。……でも、翼が片方やられちゃった」
「翼?」
息をつきながら言ってくる彼女の言葉を確かめるように、俺はそっと背後に手を回す。
「あ……」
背中に生える、二枚の黒翼。
そのうちの片方、左側に生える翼が付け根から千切れかけている。
まさに薄皮一枚、と言った感じか。
少し力を込めて引っ張れば簡単にもぎ取れるのではないかというくらい、酷い状態だった。
「身体は? 刺されただろ?」
翼の切り口から漏れる血が手に付くが、今更もう気にもならない。
「え? 切られたのは翼だけだよ。それで、飛べなくなって落っこちて……」
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