桜の記憶

 方向感覚が完全に狂いかけてしまいそうな、そんな焦燥感が膨れ上がる。


「早く……見つけねぇと」


 ガーディアンに先を越される前に。


 闇雲に足を進ませ、目を凝らす。


 地面と上方に広がる木々の間。


 その両方に注意をして、気配を探る。


(せめて、ライトくらいあれば……)


 スマホの明かり程度ではなく、もう少しまともな。


 そんな愚痴を胸の中で磨り潰し、さらに歩く。


 ガサガサという自分が立てる葉擦れの音が不快に響く。


 ガーディアンは果たしてどこを移動しているのか。


 音どころか、動き回る気配すら掴めないのが薄気味悪い。


「――?」


 何の前触れもなく、耳に呻き声のようなものが届いた。


 いや、届いたような気がした、というべきか。


 動きを止め、耳を澄ます。


「……」


 聞き逃してしまいそうなほど小さな物音が、今度はしっかりと確認することができた。


 小枝を折るような、乾いた音。


 それと一緒に聞こえたのは……。


 音源に目星をつけ、警戒しながら近づく。


 さらに大きく、落ち葉が擦れる音が聞こえた。

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