桜の記憶

 あんなのがこの世に、ましてやこんな場所に存在するはずがない。


 それがいるということは――。


「何かいる?」


 桜が、危機感なく指差した方を見やる。


(う――!)


 同時に、影が動いた。


「気をつけろ! あいつもうこの近くにいるぞ!」


 叫ぶのとタイミングを重ね、影はこちらへと猛スピードで突進してきた。


 瞬間、身体が横に引っ張られる。


 何が起きたのかと状況を見失うが、すぐに桜が俺を抱えて真横に跳躍したのだと理解する。


 自分たちがいた場所を、翼竜が手摺を破壊しながら通過していく。


 それから一度高度を上げて旋回すると、バサリという大きな音を立てながらまるで対峙するかのように降り立った。


「ドラゴン……」


 俺を抱いたままの桜が、目を丸くして呟く。


「あれも、お前の世界からきたのか?」


 訊ねると、うん、という頷きが返ってきた。


「好戦的で戦闘能力が高いから、皆が会いたがらない種族の筆頭」


「……最悪だな。お前の能力で支配できないのか?」


「無理みたい。この辺り一帯にはもう力を展開してるけど、全然通じてない」

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