桜の記憶

「え?」


「じゃあ、また学校でな」


「あ、ちょっと雄くん――」


 有紀の返事もろくに聞かず、俺は桜の背中を追って走り出した。


(ここまできて途中退場なんて納得できるかよ)


 胸中でぼやきつつ、雑踏に紛れる黒髪を見失わないよう視界に留める。


 これから自分は、昨夜以上の危険な目に遭うかもしれない。


 予想もつかないような最悪な展開を目の当たりにするかもしれない。


 それでも。


 それらのリスクを抱え込むことになる可能性が高いことを承知した上で、俺は桜の行き着く結末を見届けることを選んでしまった。


 行き交う人々を避けながら、もどかしい気持ちで歩を進める。


(ここまで関わらせておきながら、最後にきてこんなやり方はねぇだろうに)


 ましてや、これが今生の別れになるかもしれないなら尚更だ。


 憤る気持ちと不安、まだ微かに残るこの選択で良かったのかという迷い。


 それらを胸の奥にわだかまらせながら。


 俺は、伸ばした腕を前を歩く悪魔少女の肩に乗せた。


「待てよ、桜」

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