桜の記憶
無意識に、桜の横顔を見やる。
これから、どう動くつもりでいるのか。
一度帰宅し、何かしら準備を整えるつもりでいるならばそれはそれで良いだろうが、このまま直接約束の場所へ向かおうとしているなら、俺はどうすべきなのだろう。
今夜の件について、桜はまだ俺に何も言ってきていない。
いつものように手伝えとも、来なくて良いとも何も言っていないのだ。
(……どうするつもりなんだよ?)
口には出さず、胸中で問う。
それを察知したわけではないだろうが。
桜がスッとこちらに黒い瞳をスライドさせた。
一秒にも満たない時間、お互いの視線が交わる。
「……?」
まるで何かを言いたそうな、迷うような意志が伝わってきた気がして、俺は眉をしかめる。
しかし、それは一瞬のことで桜はすぐに普段の表情を浮かべ有紀へと話しかけていた。
「ごめんね、白峰さん。あたしこれから凄く大事な用があるから家には帰れないの。雄治と二人で帰って良いよ」
どうでも良いものを指し示すようにこちらを指差し、桜はそう言葉を漏らした。
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