桜の記憶

 実際、自分だってそう思っていた。


 訳のわからぬまま記憶探しに付き合わされ、手探りとも呼べない状態で動き回ってきた。


 その結果、異界の化物に遭遇し更には得体の知れない奴とまで出会う羽目になり。


 こんなきてれつな展開は、さっさと片付いてくれた方が良いに決まっている。


 そのはずなのに、どこか寂しさを感じてしまうのも正直な気持ちだった。


 気づかぬうちに情が移ってしまったか。


 そんな思いつきに、自嘲の笑みが深まる。


「……何でいきなりにやつくの?」


 気味悪くでも映ったか、俺を見ていた根崎が不審そうに眉を寄せた。


「いや、別に。卑屈になってるだけだよ」


「は?」


 おどけるようにして答えると、当然のように友人はぽかんと口を丸くさせた。


 それから、ほんの少し逡巡する素振りをして改めて口を開いてきた。


「……悩みでもある?」


 反射的にピクリと瞼が動く。


 そんな風に見られたかと内心毒づきながらも、俺はどうにか平静を装っておく。


「そりゃ、誰だって悩みはあるさ。まぁ、大したことじゃねぇよ。気にすんな」

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