桜の記憶

 言われてみればその通りではある。


 狼男の記憶を桜の中だけから消去したとして、敵がそれで有利になるとは考え難い。


 となると、やはり目の前に立つ少女は元々の記憶喪失とは別の、一時的な記憶障害にでもなっているのか。


 脳震盪を起こした際に、何かしらの異常が脳内に発生した恐れもあり得る。


「……余計に不安要素が増えたな」


 片桐のことと、それに付随する桜の危機。


 おまけに更なる記憶障害ときた。


(マジで大丈夫かこれ……)


 蒸した風に髪を揺らされながら、危機感のかけらも見せる様子のない桜を複雑な気分で眺め、俺はジワジワと沸き上がる胸騒ぎに表情を歪めた。

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