桜の記憶

 狼男に関わることだけを忘れ、他のことは鮮明に覚えているというのも腑に落ちない。


(どのみち、笑って済ませられる事態じゃなさそーだよな)


 理由はわからないが、ほんの僅かとは言え桜の記憶が更に消えているのは事実。


 つまり、彼女の状態は万全ではない。


「おい、桜。お前今日はやっぱり様子を見た方が無難だよ。あんだけ派手に暴れておきながら記憶にないなんて絶対に異常だ。そんなんで得体の知れない奴と対峙しようなんて、リスクが高すぎ――」


 そこで、俺はハッとなった。


 得体の知れない奴と対峙する以前に、既にもう桜が何らかの攻撃を受けている可能性はないだろうか。


 この断片的な記憶喪失が何者かの仕業であったとしたなら……。


(桜の能力と同じか、それに類似する力とかか?)


 そう考えると同時、俺は無意識に周囲を見渡していた。


 見晴らしは良い。


 怪しい人物でもいようものなら、見つけだせる自信はある。


「雄治、急にきょろきょろしてどうしたの?」


 そんな俺を不思議そうに見て、桜もまたつられるように周りを見回した。

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