桜の記憶

 額の手を振り払い、俺は噛みつかんばかりに怒鳴る。


「……あの程度で死なないって。まぁ、確かにダメージは受けたけど」


「首と腹、マジで平気なのか?」


「うん、ほら」


 顔をしかめる俺の前で、桜は服を捲って腹部を見せてきた。


 赤くなってはいるが、それだけのように見える。


 一見して華奢な女子と変わらないような体格だというのに、この身体のどこに耐久性を備えているのだろうか。


「じゃあひとまず下に降りよ?」


 服を戻しながらそう言って、桜がこちらの返事を待つことなく抱きかかえてくる。


 またしてもお姫様抱っこだ。


「おい、だからこのシチュエーションはやめろ――おあっ!」


 呼び止める間もなく飛び下りる桜。


 倒れる狼男とは七、八メートル離れた場所に着地して、素直に俺を解放する。


「誰も見てないから恥ずかしくないでしょう?」


「いやそういう問題じゃなくて……、はぁ、まぁいいや」


 嘆息しながら呻いて、俺は小さく首を振った。


「ところで、さっきのは何だ?」


 倒れたままの狼男に意識を向け、会話の方向を変える。

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