桜の記憶

「ガァァ!!」


 耐えきれなくなった狼男が無理矢理身体を捻り桜を横に飛ばす。


 そこから立ち上がり体勢を整えるのと、桜が追撃を加えるのがほぼ同時。


 離れた距離を再び詰め、跳ねるようにして真正面から右足を振り上げ顎を撃ち抜く。


「グェ……!」


 さらに、さらけ出す格好になった相手の喉へ、正拳突きのような攻撃を仕掛ける。


 喉が潰れたかの形相で狼男が苦悶に口を開き、血の混じった涎を溢す。


「これでたぶんとどめ!」


 叫んで、桜が苦痛で身体を折る狼男を担ぎ上げた。


 どうするつもりかと見守る俺をちらりと窺い、力を溜めるように膝を曲げるとそのまま盛大に跳躍をしてみせた。


 俺がいる屋根よりも更に高い。


 追いかけるようにして見上げると、月に重なるようにして桜のシルエットが浮かび上がっていた。


 限界まで飛び上がったのか、フワリと動きが止まる。


 そこから、重力に従い垂直に降下。


 一気に加速をつける中で、桜は狼男の服を掴み直して持ち上げるように右腕を掲げた。


 落ちてきた二人が、ちょうど俺のいる高さまで戻ってきたその時。

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