桜の記憶

 想像していたより遥かに、次元が違う。


 桜の立っていた場所は、重い何かを叩きつけたかのように割れている。


 これほどの衝撃を与える一撃を、あの悪魔少女は傷一つ負うことなく受け止めた。


 そしてそれは、あの狼男の常軌を逸したスピードに反応しているということでもある。


(こういうことかよ)


 いざとなったら俺を守ると軽口を叩いていた理由が、頭の中で明確になる。


 初めて会った時から見た目の割に力が強いと思わされることが何度かあったが、まさかここまでとは認識していなかった。


 と言うか、こんな戦闘能力が高いなんて想像できるわけがない。


(これが悪魔の力……)


 しかし、能力に依存して自惚れているわけではなかったと結論づけることはできたが、それでも油断して良い状況ではない。


 力が強いのはあの狼男だって同様だ。


「――!」


 狼男が地面を蹴り桜へ飛びかかった。


 お互いの間が瞬時に詰まる。


「ガァァッ――!」


 顔面を突き破るような勢いで繰り出された手刀を、桜は上体を僅かに左へ逸らして避ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る