桜の記憶

「あれ? 女の子にお金出させるの?」


「こんな時ばっかてめぇ……!」


 元はと言えば桜が勝手にジュースを買おうとしていただけの話だっただろうに、何をどうねじ曲げればこういう展開に行き着くのか。


「と言うわけで、あたしオレンジジュース。白峰さんは?」


 ピッと目当ての飲み物を指差して、桜は有紀を振り返った。


「え? でも……、本当に良いの?」


 戸惑うような視線を俺にみせて、有紀は判断に窮する。


「いいのいいの。どうせ雄治はゲーム以外にまともなお金の使い道ないんだから」


 はっきりと図星を言われ、言葉に詰まる。


「雄治、たまにはこういう出費もしないと駄目だと思うの」


「覚えとけよお前」


 ついさっき、年末へ向けての経費削減を誓った矢先にこれである。


 とぼけたようにあさっての方角を向く桜を睨み付けながら、俺は仕方なく財布を取り出した。

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