桜の記憶
入り口を出て、ほんの数メートル。
三台並んだ自販機の一番手前に、桜の姿はあった。
じっと、自販機を睨んだまま動く気配がない。
「……?」
あんな場所に突っ立って何をしてるのかと、俺と有紀はしばらく黙って様子を窺う。
頭から流れた汗が、首筋へと落ちていく。
睨むように自販機を凝視する桜と、その桜をひたすら見つめる俺たち二人。
端から見れば間違いなく“何だこいつら”と思われていることだろう。
やがて、桜の右腕がゆっくりと上がり始める。
その指先は、まるで何かを指し示そうとでもするかの如く人差し指だけが立てられていた。
そして、その指先がそっと自販機のボタンに触れる。
「……」
押したんだと思う。
しかし、ジュースの取り出し口からは商品が落下してきた気配はない。
「……」
僅かに顎を下げそれを確認した桜は、さらに二度三度とボタンを連打する。
しかし、それで何がどうなるわけもなく。
「…………」
やがて桜は、痺れを切らしたように本の詰まった袋を振り上げた。
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