桜の記憶

「この間やったテストの成績とか。進路なんかも、もう決めたりしてるのかなって思って」


「テストは百点。進路は、別に考えてない。必要ないから」


「え? 必要ないって、どういうこと?」


 桜のこぼす返答の意味がわからず、有紀はきょとんとなる。


 確かに、進学や就職をするためにこの世界に来たわけではない桜にとっては、進路など眼中にもないだろう。


 無事に記憶を取り戻し、ここへ来た目的を思い出せればそれで良いことなんだろうし。


「……ん? ちょっと待て」


 そこでふと、俺はあることに気がつき歩くのを止めた。


「どうしたのよ、雄治」


「忘れ物でもしたの?」


 怪訝な表情で振り返る二人を無視して、俺はたった今桜が口にした言葉を思い返した。


“テストは百点”


(軽く聞き流しそうになったけど、こいつ間違いなくそう言ったよな?)


 聞き間違い、ではないはずだ。


 ならば、桜の言い間違いか?


「……桜お前、頭良かったのか?」


「え? 何その腹立つ言葉」

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