桜の記憶

「まぁ、確かに悪魔が漫画読んでたら大したもんだわ」


 素直に思ったことを口にして、俺は半眼で呻く。


「でも、何でそっちの世界じゃ好きに本が読めないんだ?」


「読みたくても、本を開くことができないから」


 こちらの素朴な疑問に、僅かに首を振りながら答える桜。


「……何で?」


「魔力の鍵がかかっているから、って言えばわかりやすいのかな。そもそもあたしの暮らす世界の本っていうのはね、それ自体が魔力や能力の覚醒を促すアイテムになってるの」


「うん?」


 言っている意味がよくわからず、俺は首を傾げる。


「つまり、本を読んだ相手に書かれている内容の力を授ける役割があるってこと」


 ピッと人差し指を立てると、桜は得意気な態度で説明を続ける。


「あたしで言うなら、敵に触れなきゃ記憶を操作することができなかった力が、本を読むことで相手に触れることなく記憶を操ることが可能になったりするわけ」


 わかる? と言って、桜が俺の反応を窺う。


「つまりあれか? ゲームなんかで魔術の書とかゲットすると、自動的に新しい魔法覚えたりするのと同じ仕組みか」

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