桜の記憶

「悪い? あたしも本買いたいし、ついでなら一緒に行こうかなって」


 しれっとした様子で桜が言った。


「……お前、本なんて読むのか?」


「うん、人間の書いた書物って面白いよね。漫画とか、普通に主人公が魔法使ったりするじゃない? この世界にはない能力のはずなのに、よく思いついたなって感心しちゃった。発想力が優れてるのね、きっと」


「ああ……、言われてみればそうだよな。悪魔や異世界なんて、そもそもは人間の作り上げた空想でしかなかったのに」


 それが本当に実在してしまったのだから、何とも不思議な話である。


 この世で初めてファンタジー世界を考えた人物は、実際にそういう世界が存在することを知っていた可能性だって考えられるのではないか。


 桜の存在を認識する今となっては、そんな憶測すらあり得そうに思えてくる。


「あたしね、これでも小さい頃から本には凄く興味があったの。でも、あたしの住んでる世界にある本はどれでも好きに読むなんてことできなかったし、漫画みたいな絵が描かれてるものも全然無かった。だから、初めて漫画を読んだ時はちょっと感動しちゃった。この世界の言葉で言うカルチャーショックってやつね」

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